ネイチャー・ドキュメンタリー制作において、世界一の規模と50年以上にわたる伝統を誇るBBCアース。そのBBCアースで20年以上も制作に携わり、『プラネットアース』ではエミー賞に輝いた実績を持つマーク・ブラウンロウさん。シマリスやスコーピオンマウスら小さな生き物たちの世界を、彼らの視点で見つめているような迫力の映像で描いた『小さな世界はワンダーランド』の公開に際し、お話を伺いました。
■ BBCアースでのキャリアのスタートは“リサーチャー”
小さい頃から自然や動物が好きで、ブリストル大学では動物学を専攻して、学位を取りました。もともとBBCの自然史映像に興味を持っていたので、ナチュラル・ヒストリー・ユニットに、まずはリサーチャーとして入りました。BBCのナチュラル・ヒストリー・ユニットは、50年以上の歴史を持つ自然史映像を作るユニットなので、入ってから映像制作の現場で学んで、監督やプロデューサーを担当するようになりました。
BBCのナチュラル・ヒストリー・ユニットでは、僕を含めたプロデューサーが企画のアイディアを出すこともありますし、企画開発チームから案が挙がってくることもあります。様々なアイディアが飛び交う環境の中で、僕が最初に案を出して制作したのは2010年の「イグアナ~恐竜のように生きる」でした。
中央アメリカに住むイグアナを題材にした作品で、イグアナを選んだ一番の理由は、今まで誰も描いていなかったから、ということです。イグアナたちは大人になった時にワニがたくさんいる捕食者だらけの川を渡って島に行き、そこで赤ちゃんを産みます。産まれた赤ちゃんもまた、ワニが多く潜む川を渡って熱帯雨林まで辿りついて立派な大人にならなければいけないという、壮大なストーリーがあります。このストーリーに感銘を受けて、制作したものが自分の中で原点と言えると思います。
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■ ピクサー・スタジオとのコラボレーション
今回、シマリスやスコーピオンマウスたちの「小さな世界」を描いてみたいと思ったのも、今まで誰も描いていなかったから、というのが理由の一つです。象やライオン、トラなど、大きな動物たちの世界は、これまでのBBCアースの作品でも描かれていました。でも僕は、それらの大きな動物たちの足下に隠れてしまうくらいのサイズで暮らしている彼らの生活に、とてもワクワクしました。小さく見える世界にも、大きな成長物語や、映画顔負けのアクションが展開されていることに気が付いて、それを描いてみたいと思ったのです。
そのような小さな生き物たちの生活を描くにあたって、僕がまずイメージしたのはピクサー・スタジオの描く世界でした。
遠くから観察型で撮る通常のネイチャーものと違って、例えば「バグズ・ライフ」のように昆虫たちの低い視点から彼らの世界を描く手法に、インスピレーションを受けていました。それは、観客に体長20センチ~30センチの生き物が見ている世界を疑似体験させることになり、それができたら面白いだろうという確信がありました。
さらに、ピクサー・スタジオの作品はストーリーもドラマチックで面白いので、ピクサーの方には技術面だけでなくストーリー面でもアドバイスをもらい、同時にシマリス、スコーピオンマウスそれぞれの専門家とも話して、「こういうシーンを撮りたい」というイメージを膨らませていきました。
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■ 1秒に1,000コマ撮影できるカメラで収めた、迫力の映像
今回、シマリス、スコーピオンマウスそれぞれの生活を撮影するにあたって、特別な機材やカメラを作りました。
“ファントム”という1秒に1,000コマ撮れる超ハイスピードカメラを作ったことで、40倍のスローで映像を見せることができるようになりました。
そのカメラを用いて、木から落下するドングリや、シマリス同士のケンカなどを撮影したことで、迫力のあるディテールに富んだ映像を作ることができました。
BBCの凄さは、まさにそのような技術力にあると思います。BBCのナチュラル・ヒストリー・ユニットは50年以上、自然だけを撮っているスペシャリストですから、その経験値に加えて、新しいレンズやカメラを企画に合わせて作ることができる制作費があるというのも、一つの強みですよね。今回の撮影にあたり、超ハイスピードカメラの“ファントム”と共に“ストレイトスコープ”というカメラも作りました。それは、潜望鏡のようなイメージで、長い棒のようなものの先に広角レンズがついているので、シマリスの巣穴の中にも入って行けて、奥行きのある映像の撮影も可能になりました。技術の発達によって、動物たちのさらに多様な表情、生活を捕えることができるようになるので、制作している僕たち自身も、とてもワクワクする瞬間がたくさんありますね。
■ 自然や生き物の素晴らしさに常に驚かされる
20年以上、ドキュメンタリーの制作に携わる中で、自然や生き物たちの素晴らしさに常に驚かされています。その素晴らしさを捕えることこそ、ドキュメンタリーの一番の魅力だと思っています。
例えば超能力のようなものはフィクションならではと思われるかもしれませんが、小さな生き物たちはスーパーヒーローと同じか、それ以上の能力を持ち合わせています。例えば毒に強い耐性があったり、すごい反射神経を持っていたり、チーターよりも早く走れる小さな生き物もいます。地球には、まだまだ知られざる動物や自然の魅力が溢れていると思います。
これから映像制作に携わりたいという方にも、ドキュメンタリーの魅力…フィクションと同じくらい面白い、ということは伝えたいですね。 僕自身、山頂や水中で素晴らしいスペクタクルを何度も目撃していて、それは特別なことだと思いますし、時々、こんなにラッキーでいいのかな、夢じゃないのかな、と頬をつねりたくなるほどです(笑)
■作品情報
『小さな世界はワンダーランド』
5月9日(土)TOHOシネマズ 新宿他 全国順次公開
神秘的な原生林に住むシマリスと、見渡すかぎり空っぽな砂漠に流れついたスコーピオンマウス。かれらは大人になるために、生まれて初めて家族と離れ、不思議の世界へ歩を進める。そこは、まるでおとぎ話の世界。しかし、このおとぎの国には、色彩豊かな生命たち以外にもキケンが常に付きまとう。彼らより大きく、おとぎ話でも悪役のクマやオオカミ、そして、いのちを狙うハンターたち、さらには、はじめて過ごす、来たる厳しい冬。彼らの世界を生き抜くため、そして、大人になるには、何もかもが一大事。初めて勇気をふりしぼり、 確かな一歩を踏み出す。小さいけれど世界一大きな成長ものがたり。
提供:BBCワールドワイド ジャパン
配給:ギャガ
子供500円、大人1,100円
オフィシャルサイト
(2015年5月8日更新)