2020年から、小学校でプログラミング教育が必修化されることが発表されました。小学生向けのスクールが登場するほどプログラミングへの関心が高まっており、既にAdobeのXDやPhotoshop、Illustratorなど、デザインに関わるソフトも使いこなせる小学生も出現しています。
今回は、プログラミングとデザイン両方を学びながら自分でアプリを開発した小学生5人のプレゼンテーションを聞きに、“Kids Creator’s Studio「未来の創り手」成果報告会”へ行ってきました!
現在プログラマーやデザイナーとして働いている、もしくは働きたいと思っている方、これからはプログラミングとデザイン、両方できないと生き残れないかもしれません……!?
小学生向けプログラミングスクールとAdobeがタッグを組み次世代クリエイターを育成
2018年3月27日(火)、大崎ゲートシティホールにて“Kids Creator’s Studio「未来の創り手」成果報告会”が行われました。
“Kids Creator’s Studio”とは、小学生向けにプログラミング教育を行っている株式会社CA Tech Kidsとアドビ システムズ株式会社が共同運営するスタディプログラム。
冒頭に登壇したCA Tech Kids 代表取締役社長・上野朝大さんは「約5年間小学生向けのプログラミングスクールを運営してきて、子供達のプログラミング力がメキメキとついてまいりました。プログラミングだけでなくデザインも学ぶことで、自分の手でもっと素晴らしいプロダクトを生み出していこうと、アドビさんと共同で“Kids Creator’s Studio”をスタートしました。我々が育てたいと思っているのは、ただプログラミングだけができるプログラマーでも、デザインだけができるデザイナーでもなく、プログラミングもデザインもできることで、頭の中にあるものを形にできるクリエイターです」と説明。2017年10月から約半年間、合計約100時間にわたりプログラミングとデザインを学んだ小学生5人が、自分で開発したiPhoneアプリをプレゼンテーションしました。
そもそも以前から小学生向けのプログラミングスクールがあったことすら知らなかった筆者は、既に多くの「小学生クリエイター」がいることに驚きました……。
子ども達のプレゼンテーションを紹介
一人目は、小学4年生の吉田たくとさん。カマキリ捕りと野球、そしてプログラミングが好きな彼が作ったアプリは「たべガチャ」というもの。毎日の献立に悩むお母さんを助けたいという思いから、使いたい食材を選ぶとガチャガチャ風に作れる料理を提案してくれるという機能を作りました。
デザインにはAdobe XDとIllustratorを使用し、食材の画像は自分で書いたものも。今後は選べる食材を増やしたり栄養素を表示したりとアプリを進化させたいと語りました。
実用性と遊び心を兼ね備えた小学生らしいアプリにほっこりしたところで、二人目に登場したのは小学3年生の斉藤みりさん。吉田くんと同じようにお母さんを助けたいという思いから今回のアプリを開発しました。2日連続で同じ料理を作ってしまうというおっちょこちょいなお母さんのために作ったのが、毎日の食事を記録できる「イートデイリー」。食事を写真撮影し、日時や料理名、家族からの料理の評価をスタンプでカウントできる機能があります。今回のプログラムでデザインに使用する色にはそれぞれ理由があることを知り、「イートデイリー」には食欲をそそるオレンジを採用したそうです。
三人目は小学4年生の曽田柑さん。プログラミングが大好きで、「プログラミングは難しい」と思っている人に楽しく学んで欲しいという狙いから「プログラ」を開発しました。プログラミングの6つの基本概念に基づいた24個のクイズに答えていくことで、プログラミングを学べる仕組みになっています。
「これからはもっとプログラミングを学んでいきたいです。プログラムを打っているときが楽しいし、作ったプログラムが動いたときも達成感があり嬉しいからです。Kids Creator’s Studioに通う前は、発明家になるのが夢でした。ですが通ってからはプログラマーに夢が変わりました。2020年には小学校でプログラミングが必修になるので、これからプログラミングはとても大切になってきます。是非このアプリを使って、プログラミングを学習してください」と語った曽田くん。小学生ながら次世代にも目を向けたスピーチで会場を圧倒していました。
四人目は、キャンプが好きという小学5年生の高橋温さん。赤シートを使って勉強する際に感じた不便をアプリで解消しようと作ったのが「メモリス」です。教科書など覚えたいページを撮影し、写真に赤線を引いて問題を作成し解くことができるほか、達成率も出せるので自分が苦手な問題もわかります。フリック操作で簡単に説明画面を見られるようにしたり、線を引く際の太さと長さを指1本で調整できるようにしたりという工夫で、直感的に操作することを可能にしました。
学生を中心に多くの需要がありそうな画期的なアプリだなと感心していたのも束の間。五人目に登場した小学5年生の菅野晄さんのアプリも高すぎる完成度に一同驚愕でした。
これまでにも様々なアプリを開発し、「回一首(まわりっしゅ)」という立体文字を使った3DゲームアプリではUnityインターハイやアプリ甲子園で入賞を果たしている強者の彼女。今回発表したアプリは誰でも簡単に刺繍用の図版を作れる「写刺繍(しゃししゅう)」です。よく刺繍をするというおばあちゃんのために作られたこのアプリ。刺繍で一番難しいのは設計図である図版を作ることだそうで、作りたい図版が載っている本を探したり、図版を買って写したりしなくてはなりません。でも本に載っている図版は花や鳥など同じようなものばかりで、オリジナルの図版をゼロから作るのもとても難しい。そこで「写刺繍」では刺繍にしたい画像を撮影するか、アプリから取り込むだけで図版を作成できるようにしたという画期的な機能が備わっています。
また、縦の縫い目の数を決めれば、自動的に横も決まるようになっていること、どのメーカーの糸を使うか入力すると画像のどの部分にどの色番号の糸を使えばいいかを自動的に判断してくれること、図版のデータはテキスト保存できるので、刺繍ミシンに取り込んで自動で刺繍できることなど、とにかく文句のつけようがない完成度!
質疑応答では「500円でも1000円でも売れそう」という絶賛の声が上がるも、晄さんは「図版を作るのを楽にしたいから作ったので、いろんな人に興味を持ってもらうためには無料にしたいなと思います」とキッパリ。さらに会場を感心させていました。
この日プレゼンテーションで使われたのは、5人がそれぞれKeyNoteで作成した個性とアイディアにあふれたスライド。プログラミングやデザインだけでなく、プレゼンテーションのスキルも高いなんて……まさに大人も顔負けな小学生クリエイターたちの発表でした!
自分のアイデアを自分で実現できる大人がたくさんいる社会を目指して
後半のトークセッションでは、それぞれ将来の夢を語った5人。「小学生のうちに人を楽しくさせるような会社を作りたい(斉藤みりさん)」、「プログラミングだけではなく、デザインもできる仕事に就きたい。1つに絞らず2つ合わせてできるようなことがしたい(高橋温さん)」、「プログラマーになりたい(吉田たくとさん)」、「まだあまり決めてないけれど、プログラミングを続けながら何かを開発していきたい(菅野晄さん)」、「前まではゲームを作りたかったけど、これからは使う人の気持ちを考えたアプリを作っていきたい(曽田柑さん)」と、それぞれが「クリエイター」としての未来を見据え始めていました。
CA Tech Kidsの上野さんは「決してプログラミング教育がIT人材の頭数を増やすとか、プログラマーを育てるということだけではなくて、こういうクリエイティブな手段をみんなが身につければどんどん社会が豊かになって、個人の人生も豊かになっていくんじゃないか、そういうことを体現している5人だと思います」と締めくくります。後に開かれた記者説明会にて、同じくCA Tech Kidsの執行役員・鈴木拓さんは今後のクリエイティブ業界について「この子たちのように、プログラミングだけじゃなく、デザインも含めて自分のアイデアが自分で実現できる大人たちがたくさんいるような社会になっていたらいいなと思います。彼らがリーダーとなってそういう子たちを増やしてくれることを願っています」と語りました。
今回とにかく印象的だったのは、登壇した5人がとにかく楽しんでプログラミングやデザインを学んでいたこと。実践を通してみるみる知識を吸収し、一貫して「人の役に立つようなアプリを作りたい」という思いを形にしていました。
自分のクリエイティブ性を表現するためのツールとして「プログラミング」や「デザイン」を身につけることは、大人にとっても今後必要になってくるだろうと思わざるを得ません。1つの技術に特化するのではなく、最大限テクノロジーを使いこなせることが、近い未来のクリエイターには必須条件になるのでは……? と、次世代への大いなる希望を抱いた刺激的なイベントでした。
インタビュー・テキスト:上野 真由香/編集:CREATIVE VILLAGE編集部
主催企業
株式会社CA Tech Kids
Tech Kids School(テックキッズスクール)は、小学生のためのプログラミングスクールです。2013年に設立され、延べ3万人以上の小学生にプログラミング学習の機会を提供しています。Tech Kids School では、プログラミングの知識や技術を身につけることはもちろんのこと、設計する力、表現する力、物事を前に進める力などの力を育み、「テクノロジーを武器として、自らのアイデアを実現し、社会の能動的に働きかけることのできる人材」の育成を目指しています。
アドビ システムズ株式会社
アドビ システムズは1982年に設立された米国カリフォルニア州に本社を置くコンピュータソフトウェア会社で、IllustratorやPhotoshopをはじめとした著名なクリエイティブツールを提供しています。アドビでは、教育現場に創造性をもたらす仕組みやツールを提供できるよう、様々な取り組みを行っています。そのひとつとして創造性を養う授業のアイデアや教材を教員間でオンライン共有できる、Adobe Education Exchangeというコミュニティーを無償で提供しています。