2017年に人気を博したドラマ『バイプレイヤーズ』の第2弾が2月7日(水)から始まります。シェアハウス編に続いて、今度は無人島朝ドラ編。前回に引き続き映画・ドラマ界の“バイプレイヤー=名脇役”たちが登場します。

これまでも『湯けむりスナイパー』(2009)や『孤独のグルメ』(2012)など、多くの名脇役を主役に抜擢し話題となってきたテレビ東京のドラマ。『バイプレイヤーズ』のプロデューサーであり、『下北沢ダイハード』や『黒い十人の秋山』など異色のドラマを多数手がける濱谷晃一さんに、テレビ東京ならではのドラマ制作について伺いました。

濱谷 晃一(はまたに・こういち)
株式会社テレビ東京 制作局ドラマ制作部主事
慶應義塾大学経済学部卒。2001年に入社後、バラエティ演出を12年担当した後、希望のドラマ制作部に。
『バイプレイヤーズ』『下北沢ダイハード』『黒い十人の秋山』『俺のダンディズム』など異色の深夜ドラマを多数手がける。映画『営業100万回』では監督を務める。現在は『バイプレイヤーズ〜もしも名脇役がテレ東朝ドラで無人島生活したら〜』、『特命刑事 カクホの女』、『猫とコワモテ』などのプロデューサーを務めるかたわら、時々、深夜ドラマの監督や脚本も手がける。

クリエイティブな名脇役たちが集まる『バイプレイヤーズ』

演技派の脇役俳優が主演をつとめるテレビ東京のドラマは、もともと遠藤憲一さんの『湯けむりスナイパー』や松重豊さんの『孤独のグルメ』が始まりだったと思います。当時は「テレ東のドラマにスターは出ないよ」なんて外の方に言われていましたけれど…。スターは出なくても、面白い企画を魅力的な役者が演じたら、良いドラマになる!そして、そこからスターが生まれる!というテレビ東京的なスタンスの始まりだったと思います。

今、考えるとそのムードが2017年に放送された『バイプレイヤーズ 〜もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら〜』という、名脇役だけが集まるドラマに繋がっています。ドラマ『バイプレイヤーズ』は制作会社ドリマックス・テレビジョンさんから提案された企画です。テレビ東京に持ち込まれたことも何か必然だったんじゃないかなと。企画書を見た時は「テレ東でしかできないやつだ!」と思いましたね。

出演者は多くのドラマで脇役をつとめる、いわゆる“バイプレイヤー”。皆さん芸達者で、とてもクリエイティブなんですよ。皆さんが演出プランを持っていて、アドリブもすごく多い。ドラマ本編後のバイプレトーク(出演者によるフリートークコーナー)も俳優さんからの提案です。他にもドラマの随所に“バイプレイヤーズ”発のアイディアがあるんです。面白くすることへの執念が強い!おかげで企画もどんどん膨らんでいきました。

またこのドラマにゲスト出演された方々も「面白くしてやろう」「爪痕を残そう」という意識が強い。3話に登場してくださった滝藤賢一さんなど、不倫報道に泣くというワンシーンをいきなり笑いながら演じたんです。結果、最後に泣き崩れるギャップが面白くて。例え1シーンの出演にも貪欲な姿勢は、バイプレイヤーならではで非常に勉強になります。

スタッフだって“バイプレイヤーズ”

クリエイティブなバイプレイヤーはキャストに限りません。スタッフって、どうしても脚本・監督・プロデューサーが目立ちがちですが、本当はいろんなスタッフがアイディアを出し合ってドラマを作っています。

できる美術さんは「ここでこんなオモシロ小道具持ってくるか!?」というものを用意したり。若い助監督がドラマの中に登場する架空のテレビドラマのタイトルを考えてくれてたのですが、そのどれもすごくセンスが良かった。『SIT to SAD〜悲しみの特殊捜査班〜』とか『蜜壺ダイバー』とかありそうでなさそうな(笑)。

そのように各セクションがそれぞれのアプローチで作品に爪痕を残していく姿勢は、名脇役の“バイプレイヤー”にも通じるなと思います。

バラエティ育ちだからこそ、脇道ドラマ作り

テレビ東京に入社して17年が経ちますが、そもそも学生時代にはほぼテレビを見たことがありませんでした。大学では映画や演劇のサークルに所属し、就職は広告代理店か映画会社を考えていました。でも、就職活動で最初にテレビ局のエントリーが始まるのを知り、「テレビ局でドラマを作るという選択肢もあるんだ」と気づきました。

就職試験では「ドラマの脚本と監督をやりたいです」と希望し内定をいただいたんですが、入社後にテレビ東京にはドラマ自体がないことを知ったんです。下調べしていない僕も悪いですが、面接の時に教えてくれてもいいのに…と思いました(笑)

結局、ドラマではなくバラエティ制作部に12年間在籍することになります。バラエティも楽しかったですね、特に『ピラメキーノ』の総合演出を長く務めたのは良い思い出です。

念願叶ってドラマに異動したのは35歳でした。ドラマの人脈もノウハウもなかった僕は、バラエティ番組が扱いそうなテーマでドラマの企画を立てるようになりました。例えば「褒める」というキーワードに焦点を当てた社交術ドラマ(『太鼓持ちの達人』)だったり、モノ・マガジンをドラマ化したようなメンズファッションドラマ(『俺のダンディズム』)だったり。

番組放送後にSNSで「よくこんなこと思いついたね!面白い!」というコメントが並んだらいいなとワクワクしながら企画を考えています。昨今のドラマは“強い原作モノ”を求められるケースが多いのですが、“異色のオリジナル”ばかり作っているのは、バラエティに長くいたからですね。テレビ東京の中でもさらに「濱谷は端っこだ」とよく言われますから、それは異色ドラマになるはずだと(笑)。

テレビ東京は、民放のバイプレイヤー

テレビ東京は、テレビ局の中でも王道ではない、“バイプレイヤー”のポジションにいるのかなと。『池の水ぜんぶ抜く』や『YOUは何しに日本へ?』など、夕方のニュース番組のワンコーナーでやりそうなワンアイディアで一点突破する番組が多く、他局では通らなそうな番組を好んで作る歴史があります。王道ではないバイプレイヤー道(脇道)を追究するような文化があるんじゃないかと思います。

最近、ネットニュースなどでテレビ東京を好意的に紹介していただく機会が増えましたが、ガード下の安い屋台のお店を褒めているのと似たものを感じますね。たまに他局と比べられたりしますが、「私、ミシュランのフレンチより屋台の方が好きなの!」という若い女性の言葉を鵜呑みにしないのと同様に、舞い上がらないように気をつけています(笑)。

特に「テレ東らしい」という言葉が増えたことで「テレ東らしさ」のイメージが固まってきているような気がします。その結果、企画書も「テレ東のイメージ」に沿った二番煎じのようなものも増えてきました。そこから脱するには、今のトレンドとは違う新しいものを考えなければいけないな、というのが個人的な課題です。

次回は無人島朝ドラ編、みんなで作る『バイプレイヤーズ』

今回、『バイプレイヤーズ』の第2弾が、しかも、プライムタイムで放送できるなんて幸せですね。第1弾の反響が大きかったからこそですから。

『バイプレイヤーズ』は制作会社のドリマックス・テレビジョンさんからの提案だと申し上げましたが、テレビ東京は他局の半分ほどしか局員がいないこともあり、たくさんの制作会社の方々からアイディアを募り、いろんな番組を作ってきました。外部から常駐で来ている派遣社員の方がプロデューサーとして企画を担当することもあります。いろいろな人のアイディアを積極的に取り入れていくのはよい特性だと思いますね。

第2弾の『バイプレイヤーズ 〜もしも名脇役がテレ東朝ドラで無人島生活したら〜』は、企画段階からかなりバイプレイヤーの皆さんの意見を取り入れています。また前回よりパワーダウンしたと思われたくないプレッシャーもありました。結果、もう無人島へ行くくらい突き抜けよう、と。タイトルだけ見ると「なんじゃこりゃ?」と思うかもしれませんが、実際見ていただいても、やっぱり「なんじゃこりゃ?」という内容になっていると思います(笑)。

テレビ業界で求められる人物像

面白いアイディアを出す人には、強烈に好きなジャンルがあることが多いです。映画でもお笑いでも落語でもスポーツでも、これについてはいくらでも喋れるという事が一つでもある人は違うジャンルのことをやっても面白い。

放送作家で活躍中の酒井健作さんなんて、特撮のことを喋り出したら止まらない。9割方、何を喋っているのか分からないんですけど(笑)。その趣味が番組作りに直接つながらなくても、一つのことを突き詰めるマインドは番組作りに影響すると思います。

僕は学生時代にコーヒーの空き缶を600種類ほど集めていたのですが、テレビ東京の就職面接はほぼその話ししかしてません。「お気に入りは防衛大学限定の陸・海・空それぞれの自衛隊コーヒーです。ただ残念ながら250mlのロング缶しかないんです!」などと自分の好きな缶コーヒーの話を熱弁しました。結果的にそれが面白がってもらえたんじゃないかな、と思っています。

僕のAD時代はコツコツした業務は得意だけど、ムードメーカー的な才能がなく、上司に「こんなに暗いADはディレクターとして大成しない」と言われるタイプでした。でも、心の中で「誰がなんと言おうと僕が一番面白い!」と言い聞かせ、上司に対しても「僕の方がクリエイティブなんだ!」と思っていました。だから「濱谷の企画書は意外と面白い」と言われた時は「でしょ!僕面白いんだよ!」と心の中でガッツポーズをしていました。今、考えるとやっぱり暗いやつですね(笑)。

新人のころって、意見が採用されなかったり、否定されるので、自分のクリエイティブに自信がなくなりがちだけれど、それは本当にもったいないんです。 つまり、僕が考えるテレビ業界に向いている人材は「何か強烈に好きなものがある人」そして、「自分が面白いと思うクリエイティブを追い続けられるタフな人」ですかね。

あと、本音を申しますと、これからのテレビ業界に本当に求められている人は「旧態依然としたテレビの枠にとらわれず、新しいシーンに導いてくれる人」だと思います。

配信やネットの台頭でテレビを取り巻く環境はめまぐるしく変わっているけれど、ずっと内部にいる人は染み付いたテレビ論からどうしても離れられない。僕たちの世代では浮かばないような思考の方たちに入ってもらい、これからのビジネスモデルで勝てる会社にしてほしいですね。その恩恵にあずかりたいです(笑)。

インタビュー・テキスト:河野 桃子/撮影:TAKASHI KISHINAMI/編集:大沢愛(CREATIVE VILLAGE編集部)

番組情報

『バイプレイヤーズ~もしも名脇役がテレ東朝ドラで無人島生活したら~』
(毎週水曜日 よる9時54分~放送)

(C)「バイプレイヤーズ2018」製作委員会

遠藤憲一、大杉漣、田口トモロヲ、松重豊、光石研は、テレビ東京がスタートさせる、朝ドラ『しまっこさん』で共演することに。ところが、なぜかロケ地を間違い無人島に漂流!?5人は突然南の島でのサバイバル生活を強いられる。一方、業界は5人の失踪劇で、深刻なバイプレイヤー不足になるのではという騒動に。そんな中ドラマの撮影は初日を迎えるが…。「朝ドラ」クランクインと同時に始まった無人島生活。果たしてバイプレイヤーズは…朝ドラは一体どうなるのか?

公式サイト:http://www.tv-tokyo.co.jp/byplayers/