前回から引き続き、株式会社ポケラボ エフェクトアーティスト 池田 博幸さんにお話を伺います。
株式会社ポケラボ クリエイティブ部 アートチーム エフェクトアーティスト。
スクウェア(現:スクウェア・エニックス)、サイバーコネクトツーなどを経て、現在ポケラボにて『SINoALICE ーシノアリスー』のバトルエフェクトを担当。
『SINoALICE ーシノアリスー』の開発に着手した時の背景について教えてください。
当時、ネイティブという言葉が時代遅れになり始めていました。スマホでもリッチなクオリティが出せるし、解像度も高いし演出力があることが、当たり前になり始めていまして、海外からもすごいゲームがどんどん出ていて脅威を感じていました。
エフェクトの制作にはどう影響していますか?
メインクリエイターのヨコオタロウ(以下ヨコオ)さんが制作会議の時すごく印象に残るセリフでクリエイティブを説明してくれたんです。「スタンダード且つスタンダードでないものを作っていきたい」って。とても抽象的な表現でした。
これは理解が難しくて、自分は、ヨコオさんは全く見たこともない、新しく、理解もされないし、見向きもされないものを言いたかったんじゃないかな、と解釈しました。この作品は、そういう微妙なラインというかギリギリを攻める必要があったんですよ。
ヨコオさんの過去の作品を見てみるとレーティング高くて、エグい表現だったりとか、人間の歪んで汚い部分とかをしっかり描かれているんです。なので、自分はエフェクトでエグい表現を追求できないだろうかと思ったんです。
例えば既出のアプリを見ると、人が死んだ時、戦闘不能になった時も体が「ふわー」と光り出したりとか「ふわー」と白くなって「パアアッ」と魂が消えていくじゃないですか。でも、そうじゃないだろ、人間はそんなに美しく死なないでしょと思ったんで。『SINoALICE ーシノアリスー』で敵が死ぬ時にどういう表現がいいかを真剣に考えました。ヨコオさんの作品を忖度して作り上げた感じです。
新しい挑戦や試みがあったんですか?
そうですね。ツールって、それぞれの持ち味があると思っています。一長一短ありますよね。いろいろ使って、良いとこ取りをしようと思って試しました。その結果アーティスト由来のツールが『スパークギア』で、ライブラリの豊かさ、作りやすさ、表現力の高さから使用を決めました。特に直感的に作業ができるのが良かったです。
実は『SINoALICE ーシノアリスー』では『Shuriken』も同時に使っています。クリエイターの知見や作業スピードやスキル、使う場面などで『スパークギア』と『Shuriken』を使い分けた感じです。
『スパークギア』に決めた最大の理由は、元々『スパークギア』を作っているのはファイナルファンタジーXIVで実績のある方々が独立して作った会社でして、代表の岡村さんはエフェクトアーテイストで一緒に独立したひろもとさんというエンジニアとその二人が技術の粋を集めて作ったというストーリーがあって魅力を感じたからです。
エンジニアだけの会社で作ったモノって機械的になって、アーティストが使いにくいことがあるんですが、岡村さんはアーティストなので、アーティスト視点でツールを作っているなという思想が、使ってみて感じ取れたんですよね。ここはクリエイターの自分の琴線に触れました。一言でいうと直感的で使いやすかったんです。
他に、『スパークギア』の魅力を教えていただけますか?
専門的な話ですが、素材のテクスチャーをワンシートに並べる従来の機能もあるんですけど、『スパークギア』は画像を自動でバッチ化してくれるから余計な事を考える必要が全くなかったんです。
例えば、使いたい画像をバンバン入れていって、解像度をバンバン変えて、好きなだけエディットして、極端ですけれど100枚ドーンと入れて、これだ、って決めたらそれをギュッとしてくれるから、素材調整などのストレスが少ないし、作業が軽いんです。足し算から、盛るだけ盛って、そこから不必要な要素を抜いていって残ったものがエフェクトという作り方ができるんですよね。発想を妨げない感じが、すごく良かったですね。直感的にイメージ通りのものが作れるんです。
池田さんにとって、エフェクト制作ってなんでしょうか。
エフェクトって人生だなと思っています(笑)。
エフェクトはツールの中に、よくライフって言葉がでてくるんですよ。これは、エフェクトを構成している粒子の生存していられる時間です。たとえば、色を時間軸に沿って変えたい場合は、『Shuriken』でいうとカラーオーバーライフタイムというのがあるんです。
エフェクトは粒子レベルで表示時間が決められているんです。最初から。基本エフェクトの表示時間って『Shuriken』でも『スパークギア』でも1.0秒なんです。別に伸ばすことができるんですけど、基本の時間は1.0秒。その中で、どういう風にアニメーションさせていくかを考えていくのがエフェクトなんです。
寿命1.0秒の中でどう変えていくか、生まれた時はちっちゃい赤子だけど時間が進むと大きくなる、どんどん大きくなって最後は、しぼんでいって透明度も落ちていってていうアニメーションを付けていくんですけど。これって人生と同じだなという感じです。生まれてパフォーマンスして消えて行くって、人生の悲哀があるじゃないですか。
サイレント映画も観るんですね……!
そうです。本当に古い、カメラなんて全て固定で狭い空間で演技しているような作品です。温故知新みたいな、それで目からうろこな表現方法もあったりするので、音がないのは苦痛だけど我慢して見てますね。
池田さん個人への最後の質問です。こういった思いを、後輩にどんな風に伝えてらっしゃるんですか?
自分が特に尊敬している方は、アニメのリーダーをやってる上司なんですけど、社内にはすごいスキルを持った人が大勢います。後輩にはこれら全てのノウハウを手取り足取り教えることはしていないですけれど、自分達のスキルや経験はナレッジ化して、社内のシステムに蓄積しています。それを見て自分でエフェクトを勉強するなり感化されるなりしてくれたらいいな、というきっかけを残すようにしています。
池田さんご自身も周囲のクリエイターから新しい気付きを得ていらっしゃるんですね。
そうですね。自分の所属のクリエイティブチームって、本当にセンスのいい人が多くて、センスがいいだけだったらそれだけなんですけど、僕が感じるのは、年次社歴関係なく健全な喧嘩ができるというか、そのモノ作りにおいて、議論はちゃんとできて、引くべきところは引く、そしてお互いもっている才能を認め合えているところだと思います。
自分がそういうところで仕事が出来ているのが、本当に幸せだと思います。今年で入社4年目ですが、毎日会社に来るのが楽しいですね。
『SINoALICE ーシノアリスー』とは
『SINoALICE ーシノアリスー』は、スクウェア・エニックスとポケラボが共同開発をしているスマートフォン向けゲームアプリ。2017年6月6日からサービスを開始している。
原作・クリエイティブディレクターをヨコオタロウ氏、音楽を岡部啓一氏・MONACAが手掛けるダークファンタジー。
作者を復活させる為、登場キャラクターたちはイノチを奪い合う。
キャラクターデザイナーのジノ氏が創る個性豊かなキャラクターたちと、多人数リアルタイムバトルが魅力。
公式サイト:http://sinoalice.jp
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