就職、結婚、子どもの誕生、引っ越しなど、ライフステージの変化はどんな人にもさまざまなタイミングで訪れるものです。そんなとき、より良い方向へ働き方や暮らしを柔軟に変える人が、今注目を集めています。
自分の理想のため、または家族のためなど理由はそれぞれですが、大切なものを守るため、一つの働き方に固執せずに新しい場所、仕事を選択した女性にインタビュー。
第1回目は都内のデザイン会社で働きながら、休暇の帰省中に実家の近くにある企業のデザイン職の求人を見つけ、そのままアポイント。すぐに採用となり、急きょUターンを選んだ方をご紹介します。
フリーランスデザイナーのアシスタント、雑誌・書籍のエディトリアルデザイン会社、PR系の広告会社でデザイナーとして勤め、2011年実家に帰省した際に面接した長野県にある株式会社シナノ(http://www.sinano.co.jp/)にデザイン職として転職。
好きなスノーボードに関わるためにデザイナーとして出発
――昔からデザイナーを目指していらっしゃったのですか?
学生時代はずっと「将来は美容師になりたい」と思っていました。
でも飲食店のアルバイトがきっかけで酷い手荒れになってしまい、美容師の夢を諦めてしまってました。その後は具体的に将来何がしたいという目標もなくそのまま高校を卒業し、一人暮らしをしてみようと長野の実家を出て、群馬でアルバイト、冬は趣味のスノーボード三昧という生活をしていました。
――そうだったのですね!そこからどのようにデザイナーとしての道に進んでいかれるのでしょう?
当時愛読していたスノーボード雑誌に、デザイナー募集の記事を見つけました。「デザイナー」というと、それまでは洋服のデザイナーくらいしか知らなかったのですが、そこで初めて“グラフィックデザイナー”という職業があることを知りました。それで、とても単純なのですが私も好きなスノーボードに関わりながらデザインを仕事にしてみたいと思うようになり、デザインを本格的に学ぼうと、思い切って上京しました。
――上京後はどのように過ごされていたのですか?
上京して原宿にあるデザイン専門学校に1年間通いました。学校は夜間だったので、昼間はアルバイト、課題をしながら学校に通うという、振り返れば忙しい日々を送っていましたね。でもそこでは同じことを志すたくさんの仲間たちと出会うことができたので、毎日はとても充実していました。
1年後、学校を卒業するころに「スノーボード デザイナー 募集」とWebで求人を探していたら、なんとスノーボード雑誌のアシスタントデザイナーの求人を見つけたんです。「これしかない!」と思い、すぐにコンタクトをとりアシスタントデザイナーとして仕事をスタートさせました。
――まさに理想としていたお仕事が見つかったのですね。
はい。ただそこで1年半ほど働きましたが、フリーランスのデザイナーのアシスタントでしたので仕事の量もまちまちで、毎月の収入も不安定でした。
そこで、そろそろちゃんと正社員になりたいと思い、書籍のデザイン会社へ転職しました。そこでは4年間働き、その後デザインの幅を広げるため、広告制作会社へと転職をしました。
――ジャンルの好み以上に切実な、新しい軸が出てきたということでしょうか。転職したことで、どのような変化がありましたか。
書籍デザインの会社もハードでしたが、広告制作会社は思っていた以上にハードで。毎日終電近くまで働き、終わらなければ徹夜することや、休日出勤することもよくありました。
帰省中に見つけた求人が、人生を変えるきっかけに
――辛い局面ですね…。
そうですね。働きながら、「私はこの会社で頑張っていけるのだろうか?」と考えるようになっていきました。仕事自体は楽しかったのですが、体力的な辛さがそれを上回り、働き方に不安を感じていたんです。
そんなことを考えるようになっていた頃、実家に帰る機会がありました。
両親は、疲れきって体調を崩しかけていた私を心配して、「こっちに帰ってくるという選択肢もあるんじゃないか」と言ってくれました。私も少し疲れていたからか、「それもアリなのかな」と思ったんです。
その話があったからか、「長野県にもデザイナーの求人ってあるのかな?」と思い、Webで調べてみたんです。それが意外とあり驚きました(笑)。
そこで実家の近くにある会社にエントリーしてみると、すぐに「面接に来てください」と連絡をくれたんです。
急きょこの帰省中に面接をすることになり、他の面接予定の方が全て終わったら連絡をいただけるとのことだったので、都内の自宅に戻ってきました。
その後すぐに内定の連絡をもらうことができました。
――スピーディーな展開に驚きです!当時はどんなお気持ちだったのでしょう?
「今が人生の転機なんだ!」そう思い、今まで働いていた会社にはすぐに退職の思いを伝えて、2ヵ月で自宅を引き払い実家に戻ることになりました。決まってしまえばバタバタと考える暇もなく、仕事と住むところを一気に変えることになりましたが、不思議と迷いはなく、なんだか吹っ切れたような気持ちでした。
――長野での転職先について教えてください。
実家で暮らすことになり、転職初日をスタートさせました。転職先はスポーツ用品のメーカーです。スキーポールや登山用ストック、街歩きに使われるウォーキングポールや杖などを主に製造しています。
私は営業部のデザイナー職での採用でしたが、入社から半年間は自社商品について詳しく知るために、他部署での研修をしました。工場の生産ラインにも入って、手作業で製品を作るような研修もありました。そんなことを半年もしていると「本当にデザインの仕事をさせてくれるのかなぁ?」と心配になることもありました。
半年後、無事研修が終わりました。デザイン部門には、私と同じ年の男性のデザイナーが一人いるだけでした。2名体制という小さなグループですが、求められる仕事は幅広く、会社が出展する展示会のブースの空間デザインから、そこで配られる販促物、そして実際に販売店舗に置かせてもらう商品ポップや、商品に施すデザインなど。その他デザインの仕事以外にも、広報としての社外PRや、イベントでのお客様の接客など、初めて挑戦する業務もありワクワクしました。
――培った経験やデザインスキルをさらに広い領域で発揮されるようになったのですね!やりがいを肌で感じながらお仕事をされているように感じましたが、反対に悩んだこともあったのでしょうか?
最初の頃は、私の提案に対し「今までのやり方で実績があるんだから」と、変えることに難色を示されることもありました。その時は悔しかったですが、それなら自分の提案を信じてもらうために、とにかく私自身が信頼されるようになろうと思いました。依頼された仕事は素早く仕上げ、小さな案件も手を抜かず、納期は必ず守りました。
デザイン職に就いて2年目くらいまでは、そのようなスピード感を大事にし、3年目くらいで、ようやく自分の提案に耳を傾けてもらえるようになっていったと思います。
仕事の奥深さを追求、会社に貢献する喜びを知った今
――現在も、その会社でお仕事を続けていらっしゃるのですよね。
今はこの会社に入って5年目になります。(※2017年時点)
別の部署にいる夫と結婚し、夫婦そろって同じ会社で働くことになるなんて、都内で働いて頃は本当に思ってもいなかったので、人生どうなるかなんてわかりませんよね(笑)。でもこうなることが必然だったかのように、今、公私ともにとても穏やかで、幸せな時間を過ごしています。
今私たちには子どもがいませんが、もし今後授かることができれば、そのときは社内に二人だけのデザイナーなので、アウトソーシングできるような体制を整えるなど、社内のデザイン業務が滞りなく回るようにしなければと思っています。
――今、市川さんの原動力になっていることを一つだけ挙げるとすれば、それはどんなことでしょうか?
最近は自社のオンラインストアでも商品を販売するようになったので、そのWebページの制作なども担当しています。営業部内のデザイナーという位置づけなので、やはり商品を売るためのデザインが求められます。
常に自分が関わった商品や、手掛けたページの売れ行きが気になりますし、Webでは数字が明確に示されるので、売上が伸びた時は「この数字は私が作りました!」と胸を張れるので、そこにすごくやりがいを感じています。
――職場に欠かせない存在として意見発信されている姿が見えてくるようです。東京から長野に拠点をうつすという大きな決断を経て、デザインに迷いなく向き合えるようになったのですね。市川さん、本日はありがとうございます!
<合わせて聞きたい!>
- もし転職していなかったら、今は何をしていたと思いますか?
前の会社は体力的に限界を感じていたので、転職はしていたと思います。でも広告制作会社のように、クライアントの商品をPRするデザイナーではなく、業種はどんなものでも、自社製品があるメーカーのデザイナーになっていたと思います。 - またいい会社があったら転職したいと思いますか?
今は思っていません。ようやく会社や製品のことが理解できるようになり、仕事のコツもつかめてきたので(笑)。今の会社は多少残業することもありますが、早く帰りたい日は帰れますし、自分の裁量に任せてもらえているので、とても働きやすいんです。 - 都内から地方への転職になりますが、収入や仕事内容に満足していますか?
実際のところ収入減ではあります。でも、地方は物価も安いのでお金はあまりかかりません。それに実家も近いのでお金に換えられない心強さもあります。仕事内容には満足しています。地方の中小企業ではありますが、国内外へグローバルに製品を展開しているので、製品の企画から販売まで、一連のデザイン業務に携われるこの仕事がとても気に入っています。 - 今の生活スタイルに満足していますか?
大満足です!健康的な生活とデザインの仕事を両立して、やっている仕事の中にも夢があるということは最高だなと思っています。
今につながる1枚
ジャパネットたかたの高田明著「伝えることから始めよう」を愛読しています。物を売ること対する考え方が、今のデザインの仕事に通じることもありとても感銘を受けました。杖はもちろんウォーキングポールの利用者には高齢者も多くいます。高齢者のユーザーの心をしっかりつかんでいるジャパネットの伝え方や見せ方が気になります。本の中にある『伝える時に大切なのは、スキルとパッション、そしてミッション』の一節にはグッときました。
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Vol.3 編集者 疋田理矢子さん