放送開始から24年目を迎える朝の情報番組『めざましテレビ』。「きょうのわんこ」などの長寿コーナーの一方で、人気YouTuberのHIKAKINさんが「ココ調」スペシャルサポーターに就任するなど、新たな試みも行われています。そのようなテレビとインターネットのコラボ企画の可能性について、家族が同じ番組を一緒に見ることが少なくなった今だからこそ、家族の会話が生まれるきっかけになり得る、と話すのは、同番組のチーフプロデューサーである渡邊 貴さん。ご自身は、ドラマの制作、営業など社内での様々な業務経験を経て、情報番組の仕事に辿りついたとのこと。その渡邊さんだからこそ思う、これから映像制作に関わりたいという方へのアドバイスなども含め、お話を伺いました。
結果的に辿りついた情報番組の仕事
もともと映画もドラマも好きで、フジテレビでは野島伸司さんが脚本を手掛けた王道のドラマも好きでしたし、映画もたくさん見ていました。
でも、テレビの仕事に就きたいと熱心に思っていたわけではなくて、直接のきっかけは就職活動です。動機が不純かもしれないのですが、新聞記者である父親を驚かせたかったんです(笑)。父に自慢したい気持ちがありましたね。
メディアの中でもテレビが強い時代で、まずはテレビ局に入りたいという気持ちで就職試験を受けました。そこが最初のきっかけで、面接の時には、人間ドラマを作りたいと伝えていました。そして、入社後はドラマ制作に配属されました。でも、ドラマが向いていたわけでもなくて、3年目で営業に異動することになりました。営業では4年間デスクワークを続け、それから情報番組に拾ってもらったような感じです。制作に関しては紆余曲折があり、営業から、制作への異動希望を出していて、制作の中でも情報番組を目指したというよりは、結果的に情報番組の仕事に辿りついて今に至ります。
そして情報番組で最初に配属されたのが『めざましテレビ』でした。それが今から13年前、29歳の時で、ディレクターとしてのキャリアのスタートとなりました。『めざましテレビ』の現場では2年半くらい掛けて、一からいろいろ勉強しましたね。当時は『めざましテレビ』が『ズームイン!!朝!』に勝って、視聴率が1位になったタイミングでした。ようやく長寿番組に勝ったという喝采の中で、良い経験になりました。
以後『とくダネ!』のディレクター、チーフディレクター、『Mr.サンデー』の総合演出で経験を積みました。そしてチーフプロデューサーとして再び『めざましテレビ』に関わることになったのは、自分が『ズームイン!!朝!』を抜いた、昔の良い時代を知っているから、というのはあると思います。自分が最初に携わった番組ですし、これまでいろいろな人が作ってきた伝統や歴史がある番組なので、うまく継承しつつ、失った良さがあるのであれば、それを取り戻したいと、試行錯誤しているところです。自分が一から立ち上げた番組でないことで、責任を感じている部分もありますね。
『めざましテレビ』でしか見られない企画を作る
『めざましテレビ』では、「きょうのわんこ」などの長寿コーナーと、「ローラの休日 キレイになれる健康ごはん」などの新しいコーナーを交えながら情報を伝えていく番組作りをしています。
朝、必要な情報は時代によって変化しているように思います。少し前なら、家族で朝食を取りつつの、ながら見が多かったですが、最近は夜に起きた出来事の情報をまずスマホで知る、という状況です。
情報量が多くなっている中で、それをどう整理して放送するかは大切にしています。でも、情報だけでは番組は愛されないと思うので、『めざましテレビ』でしか見られないものを作りたいと考えています。
例えば「ローラの休日 キレイになれる健康ごはん」は『ZIP!』の「MOCO’Sキッチン」をとても意識しています(笑)でも、 「MOCO’Sキッチン」は毎日放送していて、それに対して、祝日、休日の料理…働いている人たちが休みの前の日にゆっくり作ってみようかという料理なら、僕らにも提案できるんじゃないかと考えた企画です。働いている方も自宅にいる方も含めて女性向けに提案できないかと思い、料理本も出されているローラさんがキャスティングのイメージで浮かびました。ローラさんとしても「ぜひ!」と言っていただき、お互いのやりたいことが一緒だったので実現することができました。
HIKAKINさんとのコラボ企画 ~テレビ×インターネットの可能性~
今は家族の在り方が変わってきていると思います。親が見ているテレビを子どもが見ているわけではなくて、子どもは親がいなくてもスマホをいじってYouTubeを見ている時代です。その中で子どもたちのアイドルは親の知らない人になっている。それはYouTubeの存在が大きい。でも、それを否定するわけではなくて、テレビ局もYouTubeの映像を使用することが増えて、自分たちにとってもなくてはならないものになっています。今はYouTubeが時代のど真ん中にあるのかもしれなくて、そのYouTubeでアイドル的存在のHIKAKINさんは、子どもたちにとっては毎日その動向が気になっている存在です。だとしたら、家族視聴のある朝の時間帯にHIKAKINさんが登場すれば、親子の間に会話が生まれるんじゃないかと。そういう風になっていけば朝はより楽しくなるし、それも一つの情報なのではないかと考えています。逆に上の世代しか知らない存在も子供たちに伝えていくことが番組で上手くできれば、ただの情報でなくなって、家族の会話が生まれる、そうすると放送を越えた喜びがあるのかなと思ってやっています。
YouTube以外の世界にはあまり出て来ないHIKAKINさんですが、YouTuberも、マスと向き合うという根底にある部分はテレビと同じだと思います。これから、テレビもYouTubeに出ていくこともできるかもしれないですし、次の形のヒントがあるかもしれないなと思っています。
放送の枠を超えた展開で言うと、毎年恒例のお台場でのめざましライブや、めざましクラシックスなど、音楽イベントも大切にしています。
その根底には、『めざましテレビ』と音楽の関わりがあります。昔から『めざましテレビ』は音楽を大切にしていて、今日聴きたい曲や、どんな曲が流行っているのかも伝えてきました。番組で応援したアーティストがブレイクすることもあって、音楽業界を陰で支えていきたいという想いもあります。「めざましライブ」を地方でやることもそうで、魅力的なアーティストに集まっていただけるので、普段ライブを観る機会が少ない場所でもライブができたり、夏のお台場で毎日ライブをやるのも「ちゃんと音楽を聴いてみようよ」と言うメッセージでもあります。今、あまりCDが売れない時代で、音楽が遠いものになっている人たちもいるかもしれないですが、やっぱり音楽は良いものなので、番組として伝えていきたいことの一環なんだろうなと思います。あと、直接、視聴者と向き合える機会でもあります。ライブに集まってくれているお客さんを見ると、やりがいを感じますし、もっとできることがあるかなと思います。チケットも手軽な値段におさえていますし、出演アーティストと客席の距離も近い。普段のライブと一味違った体験ができるのではないかと思います。
自分のやりたいことはできるようになる
ドラマ制作に携わっていた頃を振り返って、今の情報番組の仕事に向いていると感じたエピソードがありまして。それは、ドラマで助監督時代、よく現場で寝ていたんです。睡眠時間がなかったというのは言い訳なんですが(笑)重要なシーンで何度も寝ていて怒られまして。その時に監督に言われたことが、今思うと納得なんです。「なんで眠いか分かる?」と言われて「夜、寝てないからです」と答えたんですが、「それは興味がないからだ」と言われまして。当時は興味がないわけではなかったし、こういう仕事ができている喜びも感じていたので、実感が湧かなかったのですが、情報番組に配属されてから、自分が取材したVTRをまとめたり、気合の入った編集をしている時は、全然眠くならないんです。そういう意味では、ドラマの現場にいた当時は、どこかやらされている感じというか、他人事のような意識があったのかなと。情報番組で、寝る時間がなくても眠くて辛いということはないんです。でも、ドラマの現場にいる時は眠くて辛かったんです(笑)もしかしたら、自分のやりたい現場にいる時は眠くても大丈夫という状態になるのかもしれなくて、それが一つの基準かもしれないですね。
改めて、この仕事は楽しい仕事だと思います。情報番組の仕事に関しては、寝る間を惜しんでもやりたいと思えます。そこに辿りつくまでは僕も回り道をしましたし、そういう意味では、すぐにそういう経験ができるわけではありません。長い経験を積んで自分のやりたいことが見えてくるというか…それに出会えると幸せな仕事になるので、そこまでは頑張って欲しいです。多少、嫌なことがあっても、自分がやりたいことのチャンスは巡って来るので。1~2年で見切りをつけてしまうのは勿体ないと思います。3~4年で良いきっかけがつかめるようになって、5~6年でまた違う世界が見えて、10年目とかで自分のやりたいことが見えてくる…とにかく必ず自分のやりたいことはできるようになるので、簡単にあきらめずに続けて欲しいなと思います。
番組情報
『めざましテレビ』
フジテレビ系列
毎週月~金曜日 5:25~8:00