2012年8月4日(土)より公開の映画『ニッポンの嘘』の監督である長谷川三郎さんに、これまでの生い立ちやクリエイターへのアドバイスなど、お話しを伺いました。

空想した物語を形にしたい

「映像という夢の世界をつくっている裏側はどんな世界なんだろう」と子供の頃から作り手側に漠然と興味がありましたね。映画監督って具体的に何をやるのか分からなかったのに、「将来は映画監督になりたい」と思っていました。

イメージ千葉県の田舎出身で、電車やバスを乗り継いで街の劇場に足を運び、当時のハリウッド映画やアイドル映画をよく見ていました。薬師丸ひろ子さん主演の『ねらわれた学園』など2本立ての映画を一日中繰り返し観て物語の世界にどっぷり浸っていました。

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またテレビっ子で、『熱中時代』や『池中玄太80キロ』などドラマが大好きで、“空想した物語を形にしたいな”と思い、浮かんだストーリーをノートに書きこんだりしていましたね。勉強もスポーツもできる方ではなかったので、現実とは違う世界をもっていたかったんだと思います。

ただ映画に関わっていたいと思いながらも、具体的なその方法が思いつかず、法政大学に進学したのですが、そこでは映画を作ることが盛んに行われていたんです。8ミリを撮るサークルがいくつもあって、園子温監督など、ユニークな視点の面白い自主映画を撮り、「ぴあフィルムフェスティバル」で賞をとってるような先輩方がいたんです。そこで、これまで観てきた数々の映画をお互いに自慢しあったり、8ミリで撮影したりしていましたね。

ゼロの状態から夢の世界を創っていく現場

在学中にエキストラとしてプロの制作現場を見たり、制作進行のアシスタントとして手伝わせてもらっていました。その中のひとつが円谷プロダクションで、そこである先輩と出会い可愛がってもらったのがきっかけで入社試験を受けました。とにかく映像以外の世界は考えられなかったですね。

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特撮の制作進行として毎朝スタジオに行ってセットの掃除やお弁当を手配をしたりしながら、職人的な技を持った方々が力を合わせてゼロの状態から夢の世界を創っていく現場を目の当たりにして、言わば“職人的世界”を肌身で感じ、そこでの経験は糧となりましたね。

ただその頃、NHKスペシャルで『あなたの声が聴きたい~“植物人間”生還へのチャレンジ~』というドキュメンタリーを目にしたんです。たった60分の番組尺の裏には長い取材期間がかかったものだということが素人目にもわかり、衝撃を受けました。

何より感銘を受けたのは、「カメラをまわす前にどんな豊かな時間が流れていたんだろう」と思うくらいに取材しているスタッフと取材を受けている患者の家族との間に芽生えている信頼感が映像に滲み出ていたんです。

ドキュメンタリーとは、目の前で起きていることに出会い、何かを感じとり、台本のない中で一本のストーリーを作り上げるというものです。それは非常にドキドキすることで、自分自身もその中で感情を揺さぶられてみたいと思ったんです。

自身の立ち位置も揺さぶられる興味深い仕事

イメージそこから気になるドキュメンタリー番組を見る度に「どこの会社で誰が作っているのか」というのをチェックしはじめ、その中でも一番興味を持った番組を数多く手掛けていたのが、『ドキュメンタリージャパン』だったんです。

「ここで働きたい!」と思い、後先考えずに円谷プロダクションを辞めたのですが、すぐに転職できるはずもなくいろんなアルバイトや工事現場で働きながら、世の中の気になったことを企画書にしてドキュメンタリージャパンに何度も何度も送っていました。そのうち「企画書を送りつけてくる変な奴がいる」と話題になって、最初はリサーチとして入ったんです。 その後はアシスタントディレクターをしていたのですが、その一年後にチャンスが巡ってきて自分の企画番組を撮らせてもらえました。

テーマは“青春”だったのですが、今までに自分が見たことのない青春を撮ろうと考えていたときに、渋谷で街宣車に乗っている若者を見て「街宣車から見る風景ってどんなものなんだろう」と思い、ツテがあるわけでもないのに右翼団体に飛び込んでいきました(笑)

そこで街宣デビューするまでを密着したのですが、いざその日を迎えた時、その若者は何も話すことができなかったんです。ロケの最終日に2人で居酒屋に行って「何か言いたい事があったのではないか」と聞くと、自らの生い立ちや胸の秘めた本音が止めどなくでてきて、その時に、「ドキュメンタリーって予測不能で、自分自身の立ち位置も揺さぶられる興味深い仕事だ」と痛感したんです。そこから人と出会い、いろんなことを考えさせられる面白さに、デビュー作からまんまとハマっちゃったんです(笑)

映画『ニッポンの嘘』について

イメージ反骨の報道写真家 福島菊次郎、90歳。
ピカドン、三里塚闘争、安保、東大安田講堂、祝島――。激動の戦後・日本にレンズを向けてきた。

真実を伝えるために自衛隊内部に潜入取材したりと手段を選ばずシャッターを切り続け、現在は相棒犬・ロクと気ままな二人暮らし。

バイクを転がし穏やかな生活を送りながら、自らがこの国に投げかけ続けた「疑問」を、今を生きる日本人に「遺言」として伝えはじめた時、東日本大震災が発生。

菊次郎は真実を求め最後の現場に向かうのだった・・・。ヒロシマからフクシマへ。
権力と戦い続けた老いた写真家は、今ここで「日本の伝説」となる。

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観ている人の想像力を信じたい

本作を観る人と福島さんが対話をしてほしかったので、福島さんの話を聞こうとする気持ちを殺してしまわないように必要以上のナレーションやテロップをいれないように心がけました。

イメージ映画というものは最終的に観る人が何かを感じとってできあがっていくものだと思っているので、ここは観ている人の想像力を信じたいし、そこで何かが生まれるムーブメントを期待しています。

テレビと映画はお互いにフィードバックし合うものだと考えていて、今回の映画制作で経験したことは今後のテレビ番組制作に活きると思っています。テレビ番組の制作はやってきて本当に良かったと思いますし、テレビで培ってきた技術を映画でぶつけたという感じですね。

観終わったあと暫く立ち上がれませんでした。

子供の頃に観て印象に残った映画といったら『ロッキー3』で、シンプルなストーリーに惹かれ繰り返し何度も観ました。未だに台詞を全部言えるんじゃないかな(笑)

そして一番衝撃を受けた映画は、高校生の頃に観た『太陽を盗んだ男』です。観終わったあと暫く立ち上がれませんでした。自分の中では日本映画のベストですね。その後から日本映画に興味がでてきて邦画に夢中になりました。他にも相米慎二監督や北野武監督、阪本順治監督の作品が好きです。

躊躇することなく手を挙げられるか

イメージ自分が興味がある世界や何かひっかかるという現場にはとりあえず足を運んでみること。あとは“しぶとさ”ですね。そこでダメといわれたらなぜダメなのかを立ち止まって考え、また挑戦すること。あとはチャンスが巡ってきたときに躊躇することなく手を挙げられるかが大切だと思います。

実は『ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳』は、表現者であるクリエイターにこそ一番観て欲しい映画なんです。ドキュメンタリーというものを通して人と向き合う苦しさや大変さ、その先にある喜びを表現する事とは何なのかを感じてもらうきっかけになってほしい。

本作は表現者にとって、いいヒントを得ることができる“劇薬”なので、是非飲んでみてください。きっと損はさせないと思います。


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8/4(土)より、銀座シネパトス、新宿K’s cinema、 広島 八丁座ほか全国順次ロードショー!

監督:長谷川三郎
朗読:大杉漣

撮影:山崎裕
録音:富野舞
編集:吉岡雅春
スチール:那須圭子
プロデューサー:橋本佳子・山崎裕

配給:ビターズ・エンド

オフィシャルサイト
www.bitters.co.jp/nipponnouso
©2012 『ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳』製作委員会