NHKキャラクター「どーもくん」や「こまねこ」を手掛けるアニメーション作家の合田経郎さん。その合田さんの新作は、3.11東日本大震災チャリティ・プロジェクト『ZAPUNI』 Sade×Tsuneo Goda “By Your Side”です。独特の世界観で多くのファンを魅了するSadeの「By Your Side」からイメージして制作したアニメーションの公開にあたって、作品への想いや“ものづくり”についてなど、お話を伺いました。
人生が変わった「どーもくん」の誕生
ちょうど15年前に、制作会社でディレクターをやっていた頃、NHKの衛星放送が10周年を迎えるにあたって、キャラクターの募集がありました。
そこに提出して採用になったのが「どーもくん」です。それまでは、自分がキャラクターを作るとは思いもしなくて、「どーもくん」の提出も、打ち合わせに何かしら出さなきゃいけない状況を前に、朝の3時、4時まで苦戦していました。
“どうしたらいいんだろう?”と思いながら、丸を書いたり、三角を書いたり、四角を書いたりしているうちに、「どーもくん」の形がポコッとできまして。何せ夜中3時ですし(笑)、書いたものを眺めていると、何かストーリーが生まれそうに思えて、そこから企画書を作って提出したという感じでしたね。
最初に思い浮かんだのは、暗い穴蔵で「どーもくん」がテレビをぼーっと見ている姿でした。キャラクターの募集には、実はお題があって、NHKの衛星放送は“BS1、BS2、ハイビジョン”の3チャンネルだから、3つでワンセットのものが良いと。そこで最初に変な生き物ができたので(笑)あと2つ足そうと考えて、当時、ウサギを飼っていたので、ウサギを入れようと思いました。あと、暗い穴蔵なのでコウモリがいるだろう、とコウモリを足して、3つのセットが出来上がったんです。コンセプトがあって…というよりは、ある種の落書きの中からポコッと生まれた、という感じだったのですが、なぜか採用となりました(笑)
その「どーもくん」からアニメーションの面白みを知って、絵本を書くとか、キャラクターグッズの監修をするとかに仕事の重心を移していって、CMの会社から離れて、今のドワーフを作ることになりました。テレビにはなかなか映らない、ある種の絵本のようなアニメーションの世界も「どーもくん」を手掛けてから深く知るようになったので、「どーもくん」を作ったことで、まさに人生が変わったという感じですね。
海外の音楽×日本のアニメーション“By Your Side”
“By Your Side”の始まりは、2012年の2月、ニュージーランド人のGregory Roodさんというクリエイティブディレクターの発案でした。海外の音楽に日本のアニメーションをのせたMVを作って、それを見てもらうことでチャリティーに繋げるという企画を聞いて、音楽も大好きだし、何かの役に立てればと思って、飛びつくように参加を決めました。
今までも宇多田ヒカルさんの「ぼくはくま」やScott & Riversの「HOMELY GIRL」で曲のイメージから連想して映像を作ったことがあります。ゼロからストーリーを作る場合と違って、曲から得たイメージを形にしていく場合は、自由になれるというか、イメージの世界で遊べる感じがして、自分としては楽しい表現ですね。
今回の流れとしては、絵コンテを書いたのが2012年の4月くらい。それから、いろんな人に絵コンテを見てもらって、参加してくれる人を探して、準備期間を経て撮影に入り、およそ2年かかっています。その2年間、ずっと強い気持ちで作品に向き合えていたわけではなくて、自分の作っているものが「本当にこれで良いのだろうか」と、ぶれながら、気持ちが揺れながらも、結局は最初に書いた絵コンテのまま作っていきました。
今回の“By Your Side”で、主役は女の子とぬいぐるみ(うさ、くま)ですが、一番の主役はその女の子たちが幸せに暮らしていた「場所」だと思います。そこにある空気、幸せな風だったり、あの地震を境に生まれた、ちょっと残酷な風だったり、そういう場所の空気感を作るのが一番難しかったし、時間をかけたところかなぁと思います。
あの地震をテーマにすることで、見る人によっては、とても残酷なものになるかもしれませんが、そこから何か感じてくれるものがあると信じて作っています。これはチャリティープロジェクトなので、とにかく一回見ていただいて、心が動いたらぜひ寄付をしていただけたらな、と思います。
50年後、100年後にも古びないストーリーや世界を
ドワーフからは「どーもくん」や今回の“By Your Side”以外にも、いろいろなプロジェクトが生まれています。とは言っても、キャラクターやストーリーを作って、いつか形にしようと考えているわけでもなく(笑)その都度プロジェクトが起こった時に考えるというのが通常パターンですね。
世界の数多くの映画祭で上映されている「こまねこ」の場合は東京都写真美術館で行われた「過程を見せる展覧会。“絵コンテの宇宙ーイメージの誕生”」展がきっかけでした。そこで「自分たちの撮影現場そのものを展示してみよう」という試みから、ねこの女の子「こま」が一コマ一コマ、アニメーションを撮影する様子を描いた映像を制作しました。
その映像を気に入ってくれた人が、「(渋谷の映画館)シネマライズで上映しよう」と声をかけてくれて、そこから「もうちょっと長いストーリーが見たいね」といろいろな人が集まってくれて映画になり、そして今度は「続編を作りませんか?」となりまして。その都度、慌てて作っているという感じです(笑)
実際のこま撮りアニメーションの制作では、24コマの撮影で1秒分の映像になります。一日の撮影で平均5秒くらいの映像を制作していて、30秒くらいの映像を撮るとなると一週間くらいかかりますね。
「こま撮り」という手法は原始的な、映像の始まりの頃から続いている手法だと思います。その中でも、技術面などいろいろな進化はありますが、やはり原始的な手法です。手作りのもので背景や被写体ができていて、それを人の手で動かしていて…ということでしか生まれないアナログ感があります。それは、すごく新しいものではないが故に、逆に古びないと思っていて、古びないということは、絵本のように10年後、50年後、100年後に見ても、同じように楽しんでもらえると思います。なので、過激ではないけれど、古びないストーリー、世界を作っていければという想いをこめて作っています。
これからこま撮りに挑戦したい、という若いクリエイターに向けては、いろいろな人と一緒に何かを作ることを楽しんで欲しいと思います。コンピューターの中で、一人でも多様なものを作れる時代になっていますが、いろいろな人と一緒にものを作ると、一人ではできないものになり得る可能性が大いにあるので、そこを活かして楽しんで作って欲しいですね。
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●作品情報
Sade×Tsuneo Goda
“By Your Side”
3月11日(火)zapuni.comにて公開
http://zapuni.com/
Facebookページ
https://www.facebook.com/311By.Your.Side
(2014年3月24日更新)