「火花」「深夜食堂 -Tokyo Stories-」「野武士のグルメ」をはじめとする様々なオリジナル作品や人気の映画、ドラマを楽しめる世界最大級のオンラインストリーミングサービスNetflix。そのマーケティングを担当するのは、パブリシティや、宣伝のプロデューサーなど、様々な形で劇場映画に関わってきた中島啓子さん。

Amazonプライム・ビデオ、Huluなど各種オンラインストリーミングサービスが豊富に揃う中で、まずはそれぞれのシステムや、良さを理解してもらうのが大切と考えているNetflixが思う一番の競合とは…?そして、日本でのサービス開始から約1年半が経過したNetflixのこれまでとこれから、お仕事をする際の視点についてもお話を伺いました。

劇場映画の宣伝を経て、日本でのNetflix立ち上げに参加

もともとエンターテインメント全般が好きで、映像に加えて音楽や絵画にも触れていました。でも、仕事として自分の好きなテイストのもの以外も幅広く扱うことを考えると、音楽や絵画は好きなもの以外はピンとこなかったのに、映像だけは好きなものも嫌いなものも、映像として魅力を感じたんです。

そこで映像が一番合っているのかなぁと思いました。中でも宣伝の仕事を選んだのは、いろいろな人と話せるタイプなので、クリエイターとメディアの間に入るのも得意かもと思ったからです。できるかも?とスタートしたことが結果として続いて、会社は変わっても、通して劇場映画の宣伝に携わっていました。宣伝プロデューサーとして予告編を作ったり、広告展開を考えたりすることもあれば、パブリシティがメインのこともある中で、洋画、邦画、アニメーションと幅広い作品に関わりました。

その経験を経て、Netflixには日本での立ち上げから参加しました。最初からオリジナルコンテンツに注力することは決まっていたので、コンテンツをプロモーションすることで皆さんにNetflixを知ってもらうのがスタート時からのミッションです。

劇場映画とNetflixでは、サービス自体が違うので面白かったですね。Amazonプライム・ビデオ、Huluなど各種オンラインストリーミングサービスがありますが、これだけのオリジナルコンテンツを揃えたのは、海外でもNetflixが初めてなんです。そういう意味では前例がなくて、初めは本当に手探りでした。映画は大ヒットしない限り1~2ヶ月で劇場公開が終了しますが、Netflixでは半永久的に残るので、サービスのブランドも含めて信用が大切です。見に来て「違う」と思われてしまったらサービス自体の信頼性も損なわれるので、バランスを考えて宣伝しますし、スタートして1年半くらいの今、ターゲットの方が求めているコンテンツをどう届けるかを考えるという意味では、以前と宣伝の手法が違うので、新しいことをやっているという実感があります。

日本でのサービス開始前から届けたいと考えていた3つのコンテンツ

Netflixのサービス開始に向けて、前提として“日本の方は日本のコンテンツが好き”という想定は持っていました。そのため、日本は世界で初めて、Netflixのサービスがスタートした時点でオリジナルのコンテンツを持つ国になりました。それが「テラスハウス BOYS & GIRLS IN THE CITY」です。

オリジナルコンテンツ制作にあたっては、何か一つの物語として明確に訴えるものを持っているか、ユーザーに人気が高いもの、というのは基準になっていると思います。

「火花」 Netflixで独占配信中 (C)2016YDクリエイション
「火花」
Netflixで独占配信中
(C)2016YDクリエイション

「テラスハウス」はその最たるもので、多くの方に愛されているという意味で大切な作品です。一方の又吉直樹さん原作の「火花」はNetflixだからこそのクリエイティビティを存分に活かした作品だと思います。NetflixはインターネットTVなので1話の長さの制限もないですし、全10話を一気に配信することもできます。そのことにより、それぞれのペースで見ることができますし、1話1話の終わりに来週に繋がるような要素を無理に入れなくても良く(笑)そのために脚本を書きかえる必要もありません。「火花」は10話を1本の映画として描く試みがとても評判がよく、受け入れてもらえた作品です。

「野武士のグルメ」 Netflixで3月17日から独占配信
「野武士のグルメ」
Netflixで3月17日から独占配信

アジアでもファンが多い「深夜食堂」、芥川賞受賞でも話題となった「火花」、深夜ドラマでありながら多くの熱狂的なファンを抱える「孤独のグルメ」はサービスの開始前からオリジナルとして届けたいと考えていました。「孤独のグルメ」はテレビ東京の制作なので、ライセンス作品としてお預かりすることになり、同じ原作者の久住昌之さん作品で「野武士のグルメ」をオリジナルとして制作することになりました。結果、Netflixとして最初から届けたいと思っていた3作品は全て届けることができました。

例えば「深夜食堂 -Tokyo Stories-」は90%くらいが海外からの視聴ですし、Netflixで世界同時配信をする意味、待たずに見られるということを、良い形で届けられた作品だったと思います。そして“やはり日本の方は日本のコンテンツが好き”というのを実感しているので、そこは軌道修正せずに本数を増やしていくことを改めて確認しているところです。

様々なエンターテインメントが存在する中、Netflixの一番の競合はビール?!

2015年9月のサービス開始からを振り返ると、日本市場の特徴も現れてきました。それは、他の大多数の国では、オンライン配信サービスが始まるとDVDの売上が落ちるのに、日本では、ほとんど落ちないということです。
オタク気質というか、ソフトをコレクションしたい気持ちに加えて、例えばレンタルチェーン店も駅の近くなどの便利な場所にありますし、映画でも、誰かと劇場で共有するのが好きという風潮があるのだと思います。そういう意味では配信サービスが伸びていくとは思いますが、他のサービスがなくなるとも思っていません。アーティストのDVDなども手元に置きたいという人が日本には多いので、配信だけになることはないと思っています。

最近では、Netflixオリジナル作品である「火花」がNHKで放送されることが、“異例”としてニュースにもなりました。ただ、Netflixのビジネスモデルは、配信に特化した独占権をいかに持つか、という考え方で、著作権管理はしないんです。配信の有料チャンネルとしていただいたお金だけでビジネスを成立させるにあたって、NHKでの放送により知ってもらう宣伝効果は大きいので、その独占権にはこだわらず、NHKでの放送もどうぞ!という感じなんです。

Netflixのサービス開始時には地上波などに対し“黒船”というような表現をされたこともありましたが、もちろん地上波がなくなるとも思っていませんし、ニュースやスポーツ、アーティストのライブの中継をすることもありません。でも、ライブのドキュメンタリーはできます。アメリカでは3分の2の世帯がNetflixを視聴しているので、ライブ映像を、音楽をかけるような感覚で流す世帯もあるようです。あと、暖炉の映像が延々と流れているコンテンツもあります。例えば人と話しているような時に、ストーリーがある映像が流れていたら話に集中できませんが、どこか寂しいような時に、その暖炉の音を流したり、クリスマスなどのバージョンを楽しんだりできますし、そういう新しい見方もあるんです。その意味では、私たちにはまだまだできることがありますし、その一方で餅は餅屋で、様々な面白いコンテンツがテレビから生み出されていくのだと思います。

『ロッキー』シリーズのシルヴェスター・スタローンがプロデュースし、アメリカ、ブラジル、韓国、メキシコ、ドイツ、日本の6か国から選ばれた世界トップレベルのアスリート計108人が集結して、競い合うスポーツエンターテインメント番組「アルティメット・ビーストマスター」など、バラエティも増えてはきますが、その分野でもテレビ局はいろいろなものを作っているので大先輩ですし、劇場は劇場で、共有できるなどの違う楽しみがあるので、どれもなくなるとは思っていません。

そして、Amazonプライム・ビデオ、Huluなどの各種オンラインストリーミングサービスがありますが、1本単位、月額定額制など、それぞれのビジネスモデルがあって、新しいものなので、競合というよりは、まずはそれぞれのシステムを理解してもらうのが大切だと考えています。

そういう意味で、Netflix日本法人社長のグレッグ・ピーターズは、一番の競合はビールではないかと言っています。例えば帰宅してから眠るまでの限られた時間で、ビールを飲んでそのまま寝てしまったら接触の機会はありません。そこで当たり前のようにエンターテインメントに接する時間を持ってもらうことの方が、競合を意識することより大切だと思うんです。そうしないと、アメリカでスポーツしか見ない人にはアプローチできないので、良いコンテンツにAmazonプライム・ビデオでもHuluでも触れてもらえれば、最終的にNetflixを見てくれるはずだと考えています。なので一番は良いオリジナルコンテンツを作り、配信し、サービスとして浸透することが大切だと考えて戦略を採っています。

自分がいる場所に、できることはたくさんある

仕事をする際の視点として考えてみると、一つのミッションに対して、パブリシティ的な切り口、マーケティング的な切り口など、いろいろな考え方ができると思います。そういう意味では、自分の専門をいろいろなジャンルでやってみると幅が広がると思います。

例えばハリウッド映画でも、声優さんに取材協力を依頼すれば邦画っぽい宣伝の仕方にすることもできます。そういう意味では自分のやっている仕事で他の環境に移りたいと考えるよりは、自分のやっていることに違うやり方、視点を加えてみると幅も広がるし、新しいこともできると思います。若い頃は、違う環境に変わったらもっと自分の力が発揮できるんじゃないかと思いがちですが、でも、自分がいるところでも、できることはたくさんあると思います。自分のいる位置にいてやれることを考えながらやると、楽しくなるような気がします。

Information

世界最大級のオンラインストリーミングサービス
Netflix

Netflixは「火花」「深夜食堂 -Tokyo Stories-」「野武士のグルメ」をはじめとする様々なオリジナル作品や人気の映画、ドラマを月額650円(税抜)から楽しめるオンラインストリーミングサービス。インターネットに接続したデバイス、たとえばスマートフォンやパソコン、ゲーム機、スマートテレビなどがあれば、アカウントを作成するだけで、いつでもどこでも映画やドラマを楽しむことができます。

https://www.netflix.com/jp/