『GANTZ』『図書館戦争』シリーズなどの話題作を数多く手掛け、『アイアムアヒーロー』では海外でも高い評価を得た佐藤信介監督。その最新作は、2006年に大ヒットを記録した『DEATH NOTE』2部作の10年ぶりとなる続編『デスノート Light up the NEW world』。1冊のノートで世界を変えようとした前作から10年後を舞台にした設定ならではの描写とは?そして、「やっていることは今までの延長線上ですが、やっとここまで描ききったという感覚があります」という、息づいているキャラクターをCGでゼロから作り上げた挑戦など…国内外からの注目を集める佐藤監督のものづくりに迫ります。
■ “日常を離れた作品”への想い
高校の頃から映画を作りたいと思っていて、実際に始めたのは大学での自主制作です。武蔵野美術大学の環境にはいろいろな刺激や影響を受けました。当時立ち上げた映像制作レーベル【Angle Pictures(アングル・ピクチャーズ)】から、ずっと一緒にやっている撮影監督もいます。
大学時代の作品は、日常の中にちょっと不思議なことが起こる物語をベースにしていました。当時の自主映画には内面を語るような作風が多くて、皆がそちらに向かう風潮が嫌だったので、物語で面白いね、と言われるようなものを作りたかったんです。
その後、映画の脚本を書くようになり、原作を脚本化することや、企画を提示されて恋愛ものなどを書くことが増えていきました。その流れの中で、最初に恋愛ものを監督することになり、日常に近すぎないものを作りたいと思いました。商業映画でやるからには、自主映画と違って商品にならないといけないので、もっと分かりやすく伝えるにはどうするかと考えた時に、ファンタジックなものや、90年代後半当時の日本映画界には珍しかったSFテイストやアクションに挑戦したいと思うようになったんです。それは自主映画の頃に、人間の内面に潜り込むだけに集中するのではなく、もう少し乾いたものができないかと考えたことにも繋がるのですが、そんな想いもあってSFアクションの『修羅雪姫』を撮りました。その裏には、日常を離れた作品が、もっと日本映画界にあっても良いのでは?という想いがありました。
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■ 肌や羽の質感など“そこにある”ような感覚が達成できたCG
最近では、ある作品を完成させた後にスピンオフとして、その世界観の中でまた違うストーリーを作る面白さを、改めて感じています。今回も『デスノート Light up the NEW world』の前日譚にあたるストーリーを、Huluで配信するために作りました。
『デスノート』自体も、前作で前後篇として公開されて、原作も完結しているものの10年後の全く新しいストーリーをその世界観の中で描くものです。ある世界観の中でまた違うストーリーを紡ぎ出して、映画流に新しい作品に生まれ変わらせることは、すごく創造的なことだし、逆にそこから新しいものも生まれると思うんです。
なので、ある映画を作った時に、これはこれで1つのストーリーだけど、また全然違うストーリーでこの世界が描けるよ、と示したくて。スピンオフドラマでは、そういうものを作っているのだと思います。
あと、よく大作映画という表現をされますが、脚本上、死神が出てくるから死神をCGで作っているだけで(笑)。そういう世界観だから大作と言われますが、大作を作ろうとしているわけではないし、やっていること自体は大小関係なく、変わらないんです。
今回もリュークを始め、死神が手間をかけた作りになっていますが、リュークがあるおじさんだったら、そこにただ立ってもらって撮影しているだけですからね(笑)1人の人物を撮るという意味では、リュークを撮ることも人間を撮ることも、同じ。特別変わったことをしているわけではないと思っています。
ただ、CGの製作については、今回デジタルフロンティアチームと共に、新たな挑戦をしました。それは、CGによって完全に1つのキャラクターを作ることです。『アイアムアヒーロー』の時はどちらかと言うと、“そこにあるもの”をいろいろな方法で作り出していましたが、今回は“そこにないもの”をCGによって作るのがテーマでした。
そのためには、リューク役の仮の役者さんに来てもらって、その演技を参考にリュークの演技や表情を作るなど、いろいろな試行錯誤がありました。今まで、息づいているキャラクターをCGでゼロから、ということは、僕自身の経験の中ではなかったので、これは挑戦でした。肌や羽の質感など“そこにある”ような感覚が達成できたと思います。やっていることは今までの延長線上ですが、やっとここまで描ききったという感覚があって。これは、今までの経験の蓄積だと実感しています。
もしCGチームが毎回変わっていたら、こうはならなかったと思います。前回の反省や、あれができたから、これもできるはず!という感じで進めていきました。デジタルフロンティアチームとは、早い段階から一緒に話し合いを始めました。映画の撮影に入る前のビデオでの仮撮影をするところも参加してもらって、いろいろなアイディアを出し合っていきました。新しくお色直しをするリュークのデザインも一緒に作り上げていくことができ、リューク以外に何体か出てくる死神についても、それぞれのキャラクターを表現することができました。
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■ 画面ばかりの撮影が現代を象徴?!
それに加えて、今回の『デスノート Light up the NEW world』の特徴と言えば、画面ばかり撮っているっていう(笑)…、それは現代の象徴でもあるんでしょうね。サイバーテロリストの紫苑(菅田将暉)により、スマホなどの画面ジャックで設定された“キラ”の姿が登場した時に「かっこいい」「イケメン」などのコメントで画面が埋め尽くされるシーンは、10年前にはなかったものだと思います。これまでの作品でも年々、画面を撮っている率が上がっています(笑)
何度も僕らの作品に参加してくれているエキストラの方が「この監督の作品、本当に監視カメラが多いよね」って噂していたみたいです。監視カメラと2ちゃんねるは毎回登場しますね(笑)前作ではインターネットの掲示板だったのが、今は動画サイトが同じようなコメントで埋め尽くされる画面になっている…それが現代を象徴しているのかもしれません。
他にも今回、大切に考えたのは衣装の色のイメージです。かつてキラと対峙したLの遺伝子を受け継ぐ名探偵の竜崎(池松壮亮)と、サイバーテロリストの紫苑。この2人を表現する衣装を考えた時に、一見“善”のイメージがある竜崎の方を白、“悪”のイメージに近い紫苑の方を黒にしそうなところですが、それが逆になっています。
衣装を考える時に、竜崎は白ではないな、と話していくうちに暗いイメージ、暗澹とした感じで作っていきました。一方の紫苑は、キャラクター設定的にハッカーで、変装していろいろなところに行くような活動的な部分もありながらも、ナイーブなイメージというか、何もない部屋に住んでいそうな、というか…それで白と黒が最初のイメージと逆転していきました。どっちが悪なんだろう?と思わせるような、善悪があべこべになっている感じが良いと思ったのもあります。そして、両者の中間点に立っていて、一番良心的な存在であるデスノート対策特別チーム・三島(東出昌大)を主人公にするのが構図として合っていると思いました。
■ アマチュアとプロの境界線がないフィールドで闘う覚悟
時々、審査員として自主映画や短編を見て思うことは、昨今のそうした作品は映像的にすごく進歩しているということです。僕らがフィルムで自主映画を作っていた頃とは違って、簡単にネットで公開できるし、気軽に短編など作られていますよね。
レベルも上がってきています。ですが、世界的に見るともっとクオリティが上がっていて。僕らが映画を作っていた頃は日本の学生映画の中で作っていましたが、今はそういう枠もなくて、ネット上では、行ったこともない国の短編映画を観るような機会もあります。
そんな中、たまに今の若い人に一言、と言われることもありますが、若い人達ばかりじゃなく、「僕らもがんばらなきゃ」という感じです(笑)今はアマチュアとプロの中間層が増えていて、腕を上げているし、僕らは僕らで商業映画としての難しさの中で戦いながら、クオリティの高い映画を目指しています。僕らがこういう映画を作る時も、想像力豊かなアマチュア精神を発揮する方が作品としては良くて。
今の環境では予算がついていますが、想像力が摩耗してはしょうがないので、あの時と同じ気持ちで取り組もうという意識はあります。アマチュアでやっている人たちもプロと土壌や技術は変わらなくなってきているので、これから映像制作をする方たちはプロアマ関係ない闘いの中に放り込まれている、くらいの覚悟で作った方が良いと思います。
いろいろなものを見ることで刺激を受けるはずだし、日本映画だけでなく海外の作品や、クオリティの高いインディペンデントな映画を観ることでも創作意欲は高まると思うし、本気でやりたい人は焦っても良いと思います。僕らも焦ってますから(笑)
■作品情報
『デスノート Light up the NEW world』
10月29日(土)丸の内ピカデリー・新宿ピカデリーほか全国ロードショー
原作:大場つぐみ・小畑健(集英社ジャンプコミックス刊)
監督:佐藤信介
脚本:真野勝成
出演:東出昌大、池松壮亮、菅田将暉、川栄李奈/戸田恵梨香/
中村獅童、船越英一郎ほか
配給:ワーナー・ブラザース映画