リオオリンピック&パラリンピックの興奮が冷めやらぬ中、金メダルをとることを生きがいにした男の映画、その名も『金メダル男』が10月22日(土)に公開されます。本作の原作、脚本、監督、主演を務めたのは、お笑い芸人で、俳優や司会者としても活躍している内村光良さんです。映画の完成前には、「本屋大賞」の設立者の一人であるクリエイティブディレクターの嶋浩一郎さんを聞き手に迎えた「金メダル男」原作本発売記念トークショーも開催されました。イベント終了後にお二人を直撃し、今の仕事の面白さやルーツなどについて、興味深いお話を伺いました。
■ 今の仕事のルーツは偶然がもたらしたもの
内村 僕は元々映画監督を目指していました。でも、映画学校を出た後、就職先がなかったので、とりあえず「お笑いスター誕生!!」を受けてみた、というのがこの世界の始まりです。学校では、お笑いの授業を必ず取らないといけなくて、僕は南原(清隆)とコンビを組んでいたんです。学校では発表会を絶対やらなきゃいけなかったのですが、そこでけっこうウケていたので、それならお笑いをやってみようかと思いまして。
嶋 そこの部分は、今回の小説と近いところがありますね。僕も人生において、自分の意志とは違う偶然によって生まれるものがある気がします。
内村 そもそも自分の中の一番のものを目指したい、自分が一番向いている職業につけたらいいなと思っていました。でも、まさか、それがお笑いになるとは思っていなかったので、人生は面白いなと。今回の監督3作目は、特にお笑いに特化していて、逃げも隠れもできない作品です(笑)。自分のもっている芸風や世界観を全面に出した作品になったのではないかと。また、僕が原作小説を書いたことで、お笑いの好きな人たちも本を読んでもらえるきっかけになればいいなとも思いました。
嶋さんは、どういう理由から「本屋大賞」を始められたのですか?
嶋 「本の雑誌」で書店さんとの座談会があり、「どうして直木賞にあの作品が選ばれたのだろう?」という話題が出たんです。直木賞や芥川賞は作家の方が選ぶ賞なので、本屋さんが本を選ぶ賞を作ったら面白いんじゃないかと話が大きくなって。僕は「本の雑誌」のウエブサイトを当時担当していて、賞の立ち上げに参加したんです。本屋さんは本をいっぱい読んでいて、読者にいちばん近いところにいるので、本当に読んで面白い本をちゃんと選んできてくれます。知られざる佳作が毎年何冊か入ってくる点もいいんですよ。いま、本屋さん500人くらいの投票によって決めていますが、ここ10年で本屋さんの数がすごく減ってしまっているのは残念なことです。
僕も本屋「B&B」をやっていますが、きっかけは町の本屋を作りたかったからです。本屋は自分の知らないものに出会える場所なので、下北沢という自分の生活空間のなかに本屋を是非つくりたくて。僕は本屋さんが大好きで、出張すると必ず地方の本屋さんへ行きますし、いまでも1日1軒は本屋さんを訪れます。本屋さんはみんな同じだと思われていますが、実は元祖セレクトショップなんです。本屋によって見せ方が全部違うし、同じ本をどう売るかのプレゼンテーションだと思っていますね。
あわせて読みたい
■ いろいろなジャンルの仕事をするからこそ得られる糧がある
嶋 内村さんは、お笑いから映画監督まで、マルチタスク的に活動されていますが、それはわざとそうされているのですか?
内村 実は、僕の中では全部一緒なんですよ。お笑いという世界に司会業もあれば、舞台もある。俳優業にしても、たまにシリアスなドラマにも出ますが、それはほんのひと握りで、ドラマにしてもお笑いの要素があるものばかりです。やっぱりいろんなことをやっていくと、ああ、こういう表現方法があるのかと気づき、それがすごく糧になるんです。ドラマで培ったものを、今度はスタジオコントに持ち帰ろうとか、芝居で笑わそうとか、そういう相乗効果が出ます。
あわせて読みたい
嶋 ああ、それは僕もよくわかります。イベントやテレビCM、デジタルコンテンツなど、いろいろなものを作る仕事を並行してやっていると、こっちでやった仕事があっちに役立つことがよくありますね。今どきは、自分の仕事を1つに決めない方がいいのかなとも思ったりします。
内村 いろいろと持ってこれますからね。今回小説を書いた時も、映画で撮影した場所を思い出しながら書けたし。僕のデビュー作『ピーナッツ』なんて、お笑い芸人が主役の映画ですし、2作目『ボクたちの交換日記』もお笑い芸人の物語ですし、今回の『金メダル男』もコメディです。お笑いは繋がっているんですよ。
■ 挫折を乗り越えて続けること。「懲りない、へこたれない、あきらめない!」
嶋 今考えると、最初に「お笑いスター誕生!!」のオーディションを決めた時の判断が素晴らしかったですね。その時、人生の岐路が決まったわけですから。
内村 確かに、あれはまさに決断でした。もしもあの時、1回戦で落ちていたらその後の人生が変わっていたと思います。でも、ギリギリ受かったのが分かれ目だったかなと。きっと、『金メダル男』の主人公である秋田泉一にとってのかけっこ一等賞みたいな感じですね。結局、金メダル男も当初から一等賞をとるということに対してはぶれていないんです。やっぱり、何事も「継続は力なり」じゃないかなと。いろいろと挫折があっても、続けていくことが大事です。
嶋 まさに今回、原作本の帯にあったことですよね。「懲りない、へこたれない、あきらめない!」ということが大事かと。
内村 そうですね。懲りないことは大事です。また、やりやがったなとか、一回オーディションに落ちたのに、こいつまた来やがったなという根性が必要かと。挫折なんてこれまでいっぱいありますよ。志半ばで番組を終わらせてしまったとか、いろいろとね。でも、続けていくこと。何よりもあきらめない心が大切です。
■作品情報
『金メダル男』
10月22日(土)、全国ロードショー
【物語】
東京オリンピックが開催された1964年、長野県塩尻市で生まれた秋田泉一は、小学生の時、運動会の徒競走で1等賞をとった喜びと達成感にとりつかれる。それ以降、泉一は絵画や書道、火起こし、大声コンテスト、鮎のつかみ取りなど、ありとあらゆるジャンルで1等賞に輝き、“塩尻の神童”“塩尻の金メダル男”と呼ばれるようになる。でも、中学生以降は、いろんなところでつまずき続けるが、
何度失敗しても立ち上がり、とことん前進し続けていく。
原作・脚本・監督:内村光良
出演:内村光良 知念侑李(Hey! Say! JUMP) 木村多江 ムロツヨシ 土屋太鳳
平泉成 宮崎美子 笑福亭鶴瓶ほか
配給:ショウゲート