映画『謝罪の王様』『土竜の唄 潜入捜査官REIJI』、NHK『あまちゃん』を始め、多くのヒット作の脚本を手掛ける宮藤官九郎さん。自らの監督作では、「すごくコアなことをやっています」とのこと。制作の過程では「原作が無い方が、共に作る人たちとイメージを共有して、頭の中同士だけで会話して進めていくことができて楽しい」と語ります。自らの頭の中にしかない世界を、極上のエンターテインメントとして形にしてきた宮藤さんに、ものづくりの原点や、クリエイターへのアドバイスなど、お話を伺いました。
■ 創作の原点は、10代の感覚や想い
『中学生円山』や今回の『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』など、監督作に中高生の時期特有の感覚が盛り込まれている、と言われることもあるのですが、創作にあたって、やはり10代の頃に考えていたことは、大きく影響していると思います。
ことさら僕だけが特殊な10代を過ごしたわけではないですが、逆に皆さんはどうやって10代の頃のことを描かずに作るんだろうって思います。10代の頃に考えていたことを鮮明に覚えているのは、就職とか、大きな責任を負わなきゃいけなくなるような出来事がないままこの歳になったから、なんですかね。大学2年生くらいの時に大人計画に入って、その時は大人計画の名前も今ほど知られていなかったのですが、いつの間にかバイトしなくても生活できるようになっていて、そこに劇的な変化はなくて。
ただ、ずっとお芝居だけを作っていた時期がありました。その頃、周りでは自分と同じ歳の友達がスーツを着て会社に行き始めましたが、自分にはそういう変化がなかったですね。そういう形の変化がないから、10代の頃にやりたかったこと、表現したいと思ったものを、そのままやっているんだと思います。その感覚は、そのままやっているから、忘れようがないんです。
■ 監督作で好き勝手やっていることで、バランスが取れている
脚本のみを手掛ける作品と、監督まで携わる作品で向き合い方の違いを考えてみると、映画を撮る時の方がすごくコアなことをやっていると思います。
例えばNHK『あまちゃん』で脚本の依頼を受けた時は、「小さな田舎の、地元アイドルによる村おこし」という発想のもとがあって、そこからまずNHKの朝ドラを見ている人を楽しませるにはどうしたら良いか?を発想していきます。
それに対して、例えば『中学生円山』という映画を撮りたいと思ったら、自分で発信したものなので、表現したい気持ちが先に立っています。見てもらう人のことも、もちろん考えてはいますが、最初のスタートが自分の感覚を共有できる人を探すような感じに近いんです。
僕はアイディアを形にする仕事が好きでやっているから、自分が映画を撮るなら、他にそれを説明するものがない状態の方がワクワクします。
自分の頭の中にしかないこと、例えば今回の映画『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』なら高校生が地獄に落ちて、鬼に鍛えられながら、一週間に一回の現世に行くチャンスを目指す…そういう地獄を舞台にした映画をやりたいと思った時に、原作が無い方が、共に作る人たちとイメージを共有して、頭の中同士だけで会話して進めていくことができて楽しいです。それが、監督作の面白い所でもありますし、やはり映像、特に映画は監督のものだと思います。
脚本を依頼された作品の中にもオリジナルの要素はありますが、例えば『謝罪の王様』とか『舞妓Haaaan!!!』も、最初は誰が主演でこういうストーリーにしたいというお題に応えているので、もうちょっと冷静なんだと思います。
監督作には、本当に最初から最後まで関わって熱を注ぐので、1本の映画が完成して世の中に出ていくところまでを見届けないと次にもなかなか進めません。
その間はずっと依頼された脚本などの仕事をやっていくのですが、その間にも何かが残るんですよね。誰にも頼まれなかったもの、それが、自分の監督作かなって。
だから監督作しかやっていなかったらバランスが悪いと思います。監督作でバカじゃないの!?って思われるような振り切ったことをやっているから、これじゃいけないと思って(笑)もうちょっと冷静な作品もやろうと思ったりします。2016年4月~6月に日本テレビ系列で放送されたドラマ『ゆとりですがなにか』も、最初からコメディじゃないものを作りたいと思っていて、それはやっぱりこの映画があったから、というのも大きいと思います。依頼された仕事でバランスをとっている…逆とも言えますけど。監督作で好き勝手やっていることで、バランスが取れている状態なのだと思います。
■ 演劇のテクニックや手法を映画に活かす
今回は、長瀬(智也)くんとバカみたいなロック映画をやるっていう気持ちがあって、それを考えている中で、長瀬くんが人間じゃない役をやってもいんじゃないかなって思って(笑)。
あとはやっぱり自分が演劇の人間だから、演劇でいつも使っているテクニックとか手法をもうちょっと映画に活かせないのかなと考えました。そう考えた時に、舞台は日常的な場所でない方が良いと思って、長瀬くんが鬼で、その鬼のところに毎回神木隆之介くん演じる高校生がズドーンと落ちてきて、そこから似たようなシーンが始まって…という繰り返しは面白いかなって思って、地獄の設定にしました。
通常はロケとセットを組み合わせて、シーンごとに別の場所で撮影しますが、地獄のシーンは、すべて“ひとつのセット”の中で美術を作り替えながら撮影しました。
桑島十和子さんと共に小道具なども含めてディスカッションしながら美術を作っていきました。グリーンバックで役者さんに演じてもらってCGで処理するよりも、触れることができるもので演技をしてもらいたかったので、セットも小道具も作ろうという発想でしたね。
あと、今回挑戦したのは、絵コンテを全カット描くこと。長瀬くん演じる地獄の赤鬼キラーKが率いるロックバンド「地獄図(ヘルズ)」とガールズバンド「デビルハラスメント」で楽器同士が直接対決したら面白いなと思った時に、自分の頭に浮かんだアイディアを文字に書き起こしてみたものの、誰もイメージできないだろうなと思ったので、絵コンテを書くことにしました。
絵コンテはほとんど、漫画を描いているような感覚でした。そして現場では、絵コンテがあれば、何をやろうとしているのかすごくクリアに伝わるのを感じました。
監督とカメラマンとのやりとりの中では、ビジュアルはやっぱり言葉じゃないんだと思いましたね。
■ なりふり構わずにとにかく発表する
振り返ってみると、僕が舞台を始めた頃は、とりあえず人前で大きい声出してふざけたことやりたいっていう気持ちしかなくて。それなら下北沢で…というところからのスタートで、20歳でいきなり人前に立って舞台ができたんですよね。それはすごく良い経験だったと思います。
エンターテインメントな職業に就きたいという方に対して思うのは、例えばいきなりカンヌ映画祭のグランプリを獲るような映画を撮りたいと思っても、無理だって考えて、結局何もやらない人が、意外と多いような気がするんです。自分が映像を作ったとしても、すごい作品はできないからって辞めちゃう方がいっぱいいると思うんですが、何かやらせてもらえるなら、何でもとりあえずやれば良いのにって思いますね。かっこ悪いことしたくないとか考えず、なりふり構わずにとにかく発表したほうが良いと思います。
■作品情報
『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』
6月25日(土)全国ロードショー
監督・脚本:宮藤官九郎
出演:長瀬智也 神木隆之介 /尾野真千子 森川葵/桐谷健太 清野菜名 古舘寛治 皆川猿時 シシド・カフカ 清/古田新太/宮沢りえ
製作:アスミック・エース 東宝 ジェイ・ストーム パルコ アミューズ 大人計画 KDDI GYAO
制作プロダクション:アスミック・エース
配給:東宝=アスミック・エース