子どもを育てながら働き続けるクリエイターはどんな出産、産後、復帰を経験してきたか。
さまざまな職種のクリエイターによる「子どもとしごと」の関係をリレーインタビュー!

渡邉 有香さん
primary inc.,(http://primary-inc.jp/)社員。2003年入社後、2回の産休、復帰を経験し、現在アートディレクターとしてデザイン及びディレクションを行う。

 

一人目の復帰後は、高額の保育料のためのフルタイム勤務

デザインを学び、primary inc.,に就職した当時は一番年下だったという渡邉さん。今では社内でたくさんのスタッフを取りまとめ、幼児誌や、雑誌、ムックなどのアートディレクションとデザインをしている、現在5歳の男の子と2歳の女の子の母でもある。
一人目の妊娠中はつわりがひどかったため、仕事を減らして6カ月頃から自宅勤務にしてもらい、2010年12月に長男を出産した。生まれてしばらくしてから、「保育園に入れたら7月頃復帰したい」と会社に相談していたが、生まれたばかりのかわいい赤ちゃんを目の前に、育児と仕事の両立の不安もあって、復帰を迷ったこともあったという。そんな気持ちもあり、長男が生まれてすぐのタイミングで申し込みが締め切られる認可保育園(※1)の4月入園の0歳児クラスにはなかなか踏み切れなかったという。

子どもが大きくなるのはあっという間と常に思って、一緒の時間を大切にしている
子どもが大きくなるのはあっという間と常に思って、一緒の時間を大切にしている

「気持ちも落ち着いて、保活を始めたのはやっと4月頃でしたが、運よく家からも近い認証保育園(※2)に入れることになったんです。」
入園した認証保育園は、カリキュラムがとてもしっかりしている上に夕飯まで出してくれ、最長22時まで預けられるところだったが、0歳児の保育料は当時住んでいた家賃ほどと非常に高かった。だからその分働かなくてはと、復帰早々から子どもを持つ前と同じような働き方をしたという。
「長男には食物アレルギーがあり、保育園での食事は除去にも対応していただけたし、栄養バランスも良かったので、毎日夜ごはんも園で食べさせていました。そして、20時頃に食事を済ませた子どもを、仕事を終えた夫が迎えに行き、お風呂、寝かしつけまでやってくれていました。それで私は出産前と変わらず夜遅くまで仕事に打ち込んでいた生活でした」

 

第二子を授かってようやく普通の家族の形に

二人目のときも一人目のときと同じように6ヶ月から自宅勤務に切り替えたという渡邉さん。
「産休の間は長男の保育料がもったいなかったので、自宅勤務に切り替えてもらったと同時に、長男を認証保育園から退園させました。それが大きな理由でしたが、いままでずっと仕事ばかりで、わが家は休みの日にしか家族そろって食事をすることもなかったので、もっと長男と一緒の時間を作りたいと思ったのがもう一つの理由でした。それに下の子が生まれれば、また寂しい思いもさせるかもしれないし、これが長男と二人きりでべったり過ごせる最後の時間なんだなと思って。たまの打ち合わせには長男を連れて行ったりしたことが、今は本当にいい思い出になっています」

パパと上のお子さん。休みの日はみんなで公園へ出かけることが多いそう
パパと上のお子さん。休みの日はみんなで公園へ出かけることが多いそう

2014年2月に女の子を出産。一人目のときには仕事に戻ることを迷ったというが、下の子が生まれると、心境は一人目のときとは全く違っていたという。
「働くことに対しての意識がすごく変わりました。この子たちの人生を支えていくという思いが強く、育児を通して、仕事の大切さにも改めて気がつくことができました」
そう言うが、働く時間は一人目のときより二人目の復帰後のほうが短くなっているそう。
「一人目の子が生まれたときは、保育料のためということもあったけど、子どもがいても今までと変わらない仕事スタイルを貫こうと頑張っていました。けれど二人目の産休が開けて復帰するときに、二人そろって同じ認可保育園への入園が決まったんです。そうなると、お迎えも延長をしなければ毎日18時半。それだと今までと同じ働き方を続けることはできないということになって。それを認めたらすごく吹っ切れましたね。それで会社には、一人目ではしなかった“時短勤務”にしてもらいました。おかげで子どもと過ごす時間がとても増えました」
そこで、今の生活スタイルを聞いてみた。
「少し前に、夫は朝が早い分残業のない会社に転職したので、保育園への送りは私が、迎えは夫がして、そのまま毎日夫が子どもたちをお風呂まで入れておいてくれています。これが本当に助かっています。おかげで私は18時半に退社し、家に着くと急いで食事の支度をして、お風呂上がりの夫と子どもたちと一緒に夜ごはんを食べられています」食事を終えるのが21時を超え、その後子どもたちとの時間を過ごすと寝かしつけるのは23時になることもよくあるというが、「他の家庭と比べたら、寝る時間が遅いと思われるかもしれないけど、私たち家族は今のこのスタイルに5年かけてようやくたどり着いたところで、家族4人がそろってご飯を食べるという当たり前の時間が、今すごく幸せだと思えるんです」

 

子育てをしながら働く方へメッセージ

自宅リビングの一角にある仕事スペース
自宅リビングの一角にある仕事スペース

今せっかくクリエイティブな仕事=自分が好きな仕事をしているのなら、できるだけその仕事を続けるにはどうしたらいいかということを考えてみてほしいという渡邉さん。会社を辞めてフリーランスになるという選択がなかったか聞いてみると「フリーになるのももちろんアリだと思うけど、会社員を選ぶのは“いかにその会社が好きか”ということに尽きると思うんです。社員にはフリーにはない待遇もあるので得も多いです。でも与えられた仕事だけでなく、会社の成長や後輩の指導など、組織を意識しなくてはいけないので、それが向かないという人には辛いかもしれません。結局どちらがいいと思うかは会社次第ということになってしまうけれど、私の場合は、この会社が好きで、会社で毎日得られる刺激や、会社だからこそ請けられる大きな仕事をみんなで手分けして作り上げたときの達成感がすごく重要なんです」と答えてくれた。

 

成長するごとに迎えるステージが変わっても

「今回このお話をいただいて、これは、上司とスタッフのみんな、そして夫や子どもたち、これらの人たちに普段口に出して言っていなかった感謝を述べる機会を与えられたと思ったんです。だから日頃思っていることを今日は正直に言わせてもらいました」という渡邉さん。その言葉の通り、インタビューで出た話には感謝を表す言葉がとても多かった。
「子育てをしながら働くのは大変だけど、子どもも日々成長してくれるし、どんなに大変でもそれぞれの家庭に合ったいいスタイルは必ず見つかると思うんです。うちは5年もかかってしまいましたけど(笑)」
やっと手に入れたこのスタイルだが、来年から上の子が小学生になれば今まで以上に朝型のタイムスケジュールになること、夕方も学童保育では今より早く帰宅するため「また調整が必要になりますね」と心配を口にしながらも、今の生活を「リア充です。まさに」と言い切った表情はとても自信に満ちていた。

(※1)国の基準で作られた保育園。入園の際は自治体に申し込みをする。
(※2)認可保育園では保育ニーズの多様性に応えられない部分があるため、都が独自の基準を設定して運営を民間に委託した保育システム。入園は各施設へ直接申し込む。

 

一日のスケジュール

7:30 子どもたちと起床 (夫はすでに出勤)
9:00 登園
9:15 一度帰宅し、家事、メールチェックや簡単な業務など

やりくりテクニック
帰宅後はいつも急いで食事の支度をするので、できるだけこの時間に準備をしておきます。
11:30 出社
18:30 (夫)保育園迎え→帰宅後お風呂
18:30 退社
19:30 帰宅
20:15 夕飯
23:00 子どもたち寝かしつけ
23:30 自宅作業orひとりのまったり時間
2:00 就寝

 

ホッと一息
仕事でなくても何かを作りだすことが好きで、それに熱中している時間は息抜きにもなります。子どもの名前や保育園ノート、宅配便などで押す認印として、オリジナルのスタンプを作って楽しんでいます。

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