アプリケーションは、ユーザーが絵を描いたり写真・動画を編集したりといった特定の作業を行うためのソフトウェアの総称です。ユーザーがストレスなくスムーズに目的を達成するためには、作業のしやすい優れたUI(ユーザーインターフェース)デザインが求められます。
そして、具体的に作業のしやすいUIを意識するうえで鍵を握るのがアクセシビリティです。今回はUIデザイナーとして4年以上のキャリアがある方に向けて、アプリのUI設計において重要となるアクセシビリティについて解説します。
今さら聞けないWebサイトとアプリの違いについて
アプリで優れたUIデザインをするためには、アプリの本来の目的を理解することが重要になります。Webサイトとは制作の目的や機能が異なるため、情報設計においても違いが出ることを改めて意識する必要があるでしょう。Webサイトとアプリではユーザーニーズにおいてどんな違いがあるのでしょうか。それに伴ってUIデザインの方向性にも明確な違いを出す必要があるだけに、具体的な相違点について掘り下げます。
Webサイトとアプリの共通点
まずはWebサイトとアプリの共通点は、両者ともに「何らかの目的を持つユーザー」が存在することです。そして、彼らは「目的を達成したい」と考え、それに伴った操作を行います。この一連の流れはどちらの場合でも同じです。Webサイトでもアプリでも、UIはユーザーが目的を達成するために必要な操作の部分で重要な役割を果たすことを覚えておきましょう。
Webサイトは情報が中心となる
Webサイト制作では「情報」を中心に考えます。ユーザーは「欲しい情報」があってWebサイトへアクセスします。つまり、Webサイトではユーザーが情報を理解したり取得したりしやすいようにUIをデザインすることが大切になるのです。Webサイトは言わば「本の編集」だと考えるとわかりやすいかもしれません。目次を作成したりコンテンツのグルーピングや優先順位を決めたりすることがUI設計にも求められます。
アプリは作業が中心となる
一方のアプリの目的は、内容を閲覧するだけではありません。ユーザーはデータを加工したり編集したりといった「能動的な作業」を通して何かを成し遂げることが目的としています。つまり、アプリにおけるUIはユーザーが「作業」を行いやすいものでなければなりません。そう考えた場合、アプリは「ツール制作」であると捉えられます。ユーザーが目的達成のために制作や加工といった操作を行いやすい道具づくりを意識することが大切です。
アプリのUI設計におけるアクセシビリティの重要性について
アプリのUI設計では、アクセシビリティを意識することが大切です。アプリは読んで情報収集することが目的のWebサイトとは異なり、作業することが目的になります。そのため、「問題なく誰でも使えるか」という視点が重要になる。「使い勝手」や「使いやすさ」などを意味するユーザビリティとは少し視点が異なることを留意しておきましょう。
ユーザビリティとアクセシビリティの違い
「アクセシビリティ」と似た言葉に「ユーザビリティ」という言葉があります。両者は混同されることもありますが、明確な違いがあります。ユーザビリティとは「使いやすさ」や「使い勝手」のことです。そしてアクセシビリティは「使うことができるのか」という意味合いになります。
たとえば、アプリのフォーム画面の場合。フォーム送信ボタンがなければ操作ができません。この場合、ユーザビリティ以前にアクセシビリティがない状態だと言えます。ではフォーム送信ボタンが異常に小さくて見えにくい場合はどうでしょうか。このケースだとアクセシビリティはかろうじてあるが、ユーザビリティは最悪であるという結論になります。
つまり、ユーザビリティは、「その機能が使えることを前提としたうえでの使いやすさ」について、アクセシビリティは、「そもそも機能が誰にでも使えるかどうか」についての違いです。簡単に言えば、アクセシビリティの中にユーザビリティが含まれているとイメージすれば分かりやすいでしょう。
アプリは「誰もが使える」ことが大切
前述の通り、アプリはWebサイトと異なり作業することが目的です。そのため、UI設計では「問題なく誰でも使える」というアクセシビリティが重要になります。その上でユーザビリティを意識して「使いやすい」ようにブラッシュアップしていきます。
たとえば、ゲームアプリにてアイテムボックスのUIを制作するとしましょう。まずはアイテムボックスとは武器や防具を管理できる環境であることを誰にでもわかるよう明確にします。その上で、武器や防具などの「装備」「合成」といったユーザーが必要とする操作を行えるようにボタン配置をします。
このように、UIデザインを行う際には、どんな作業を行える環境なのか明確化してそれに合った操作を確実に行えるようにする、つまりアクセシビリティの意識が大切です。ユーザビリティはアクセシビリティが整ったうえで意識しましょう。
アプリのUI設計で注意すべきこととアクセシビリティ向上の鍵とは
アプリケーション制作の内側の人間だとアプリへの理解が高く、ユーザー視点に立ちづらいためアクセシビリティを高めるのが難しいといった課題がありがちです。実際に作業を進めると「誰にでもわかるUI」を作るのは難しいことに気づかされます。アプリUI設計をする上での注意点とその解決に役立つコツを解説します。
アプリのUI設計で注意すべきこと
アクセシビリティを高めるためにはユーザー視点に立つことが第一です。しかし、アプリ制作を行う内部の人間は、アプリや業界への理解が高いためユーザーとの乖離ができてしまいがちになります。
特にアプリが多機能になりロジックが複雑になればなるほど、ユーザーに求められる前提知識が増えてしまいます。
実際、業界内で使われる固有名詞をアプリ内で頻繁に利用してしまい、新規ユーザーから「使い方がわからない」といった問い合わせや苦情が寄せられることは珍しくありません。たしかに業界特有の固有名詞を使った方が余計な説明をする必要がないため制作は楽です。しかし、初心者ユーザーとしては「何をすればいいのかわからない」状態になるでしょう。つまりユーザー視点に立てていないとアクセシビリティが低くなり、ユーザーの不満につながるわけです。
アクセシビリティの高いUIとは「誰でもわかりやすく、問題なくスムーズに操作できる」ものです。そうしたUIをデザインするためには、業界人しか理解できないような固有名詞を使わず、平易で誰でも理解できる文言に変更することが大切になります。
内部人材の流動性がアクセシビリティ向上の鍵
ユーザー視点に立つということは、極端に言うと、「IT初心者」「業界の新人」をターゲットにした誰にでもわかりやすいUIをデザインすることになるでしょう。先述のように、アプリ制作内部の人材はどうしても知識が高いため、そうした視点を持つことは難しい傾向にあります。そこでおすすめなのが、内部人材の流動性を高めることです。簡単に言えば、新しい人材の雇用や社内の配置転換を行うことになります。
アプリへの理解度が低い人材は、よりユーザーに近い視点を持っているため、出てくる意見もユーザー側に近いものとなります。そうした身近な意見を取り入れていき、アプリ制作に反映させれば、アクセシビリティも向上させやすくなるでしょう。
アクセシビリティの高いUI設計では新鮮な空気を取り入れられる環境づくりが大切
【アプリ アクセシビリティ UIのまとめ】
- Webサイトは本の情報で、アプリは道具の制作のようなイメージ
- アクセシビリティは「誰でも問題なく使えるか」が基準となる
- 多様な意見の取り入れがアクセシビリティ向上に役立つ
アプリは絵を描いたり写真を編集したりといった作業を通して目的を達成するためのツールです。つまり、ユーザーが目指すゴールへスムーズに到達できるように作業しやすいUIを設計することが必要となります。それを踏まえるとアプリのUI設計は、前提として「誰もが使える」ものにすることを意識しなければいけません。使い勝手といったユーザビリティではなく、ユーザー視点に立ってアクセシビリティを整えることが先決なのです。
ただ、制作側はアプリへの理解度が高いため、ユーザーとの乖離ができてしまいがちであるという課題を抱えています。なるべくその溝を埋めて誰もが作業しやすいアプリにするには、新鮮な意見を取り入れられる環境づくりが大切です。そのためにもぜひ積極的に人材の雇用や配置転換を行って内部人材の流動性を高めていきましょう。