動画制作において、顧客がタレントやモデル、YouTuberなどの出演を希望する場合はキャスティングが発生することも少なくありません。キャスティングをいかに効率的にこなせるかが腕の見せどころであることを、映像ディレクターであればよくご存じでしょう。

しかしながら、キャスディングでは常に折衝が発生するので一筋縄ではいきません。限られた予算や納品までの期間の中で、顧客の要望に合ったキャストをアサインすることが求められます。

良い映像を生み出すためには、その作品に関わるメンバーを選定することが重要です。そのため、映像ディレクターにおいてはキャスティングの善し悪しが仕事の評価を左右すると言っても過言ではありません。現場経験が4年以上と長い映像ディレクターが、押さえておくべきキャスティングのコツとはどんなことでしょうか。

映像ディレクションにおけるキャスティングの重要性

キャスティングについて_出演者のイメージ

映像ディレクションにおいてキャスティングは、出演のためのギャラや条件などを事務所や所属企業と交渉する折衝能力が不可欠です。制作技術とは異なる知見、知識が必要になるので、制作経験が豊富な映像ディレクターであっても苦戦を強いられることも少なくありません。では実際にどんな実務が発生するのでしょうか。

多くのステークホルダーとの折衝・調整

映像作品を制作する際は、多くのステークホルダーが関わってきます。出演するタレントやモデルらはもちろん、キャスティングのメンバーの特性によってはヘアメイク担当、衣装担当の人材のアサインも必要なケースもあります。そのため、そうした人材を起用する費用や条件などをキャスティング会社や関係企業(所属事務所)などと細かく折衝したり、調整したりする能力が不可欠です。ステークホルダーが多くなればなるほど、折衝業務はより複雑化するでしょう。

人材の選定、配役と多くの工程があるキャスティング

映像ディレクションにおけるキャスティングとは、映像制作に起用したいモデルやタレントらの人材を選定して配役することがメインミッションです。出演者の選定や出演交渉を行った後、オーディションや審査を行って出演者を決定します。出演者が決定したら、撮影の日程調整、契約、撮影当日と進む流れです。

映像ディレクターは、そのほとんどの工程に関わるので業務が非常に多岐にわたります。特に大規模な映像作品ともなると、自身の制作技術以上にキャスティングに関するスキルが重視されることもあるでしょう。

実は非常に多岐にわたる映像におけるキャスティング

キャスティングについて_複数の出演者のイメージ

一口にキャスティングと言っても、その領域は多岐にわたります。事務所に所属しているタレント、YouTuber、モデル、インフルエンサーなど出演者だけでも選択肢が多岐にわたります。そのため、キャスティング会社やキャスティングプロデューサーに要望を伝えるときは企画力の精度が重要です。キャスティングのイメージがしやすいように、企画に詳細に内容を落とし込むなど具体的に伝える力が求められます。

キャスティングの企画立案におけるポイント

キャスティングをするうえで重要になるのは、まずは情報整理です。どんな顧客が何の目的で、どの層をターゲットにして、いくらの予算で制作を考えているのかなどを、最初の段階できちんと整理しておきましょう。
【企画立案の際に整理すべき点】

  • キャスティングの目的の整理
  • ターゲットの選定
  • 起用する媒体
  • オーディションや審査
  • スケジュール
  • 予算と内訳
  • 効果測定

まずは整理したい目的とターゲット、起用媒体

企画においてまず明確にしたいのが、キャスティングの目的です。「商品の宣伝」「企業のブランディング」「顧客育成」などプロモーションを最大化するためにキャスティングの目的を整理しましょう。

次はターゲットの選定です。化粧品のプロモーションであれば、コスパ重視なら女子高生、オールインワンコスメグッズなら働く女性などとターゲットを選定することで、ミスマッチを防ぎます。
ターゲットが明確になることで、媒体も絞られてくるでしょう。テレビCMの場合は知名度が高い人物、YouTubeやSNSであればインフルエンサーなど、媒体に応じて影響力の強い人物を検討する必要があります。

キャスティングの選考段階における注意点

出演者の選定の際はオーディション審査を開催することも念頭に置きましょう。
テーマなどに沿って演技をしてもらい、複数人がそろったときの雰囲気を、自身の目で確かめることも重要です。

出演者の選定において気をつけるべきは、宣材写真が最新のものではないケースがあること。そのため、事前に最新のものを提出してもらうよう念押しをしたり、できれば携帯で撮影した動画など送ってもらったりするとイメージがつきやすいでしょう。また、実際の演技を見ると、応募書類だけでは気づかない新たな発見もあるはずです。

また、制作のスケジュールに関しては余裕をもって企画する必要があります。納期から逆算して撮影日やその後の制作期間を検討してください。また予算も限度が決められていることがほとんどです。企画の段階で費用と内訳を組み立てて承認してもらいましょう。さらに映像が完成した後の効果測定の方法を事前に決めておくと、顧客への提案だけではなく、自社のノウハウとしても次回以降に活かせます。

契約における握りやキャスティングにおけるコネも重要

キャスティングについて_折衝業務のイメージ

キャスティングへの出演をオファーする際には、難しさを痛感することが多々あるでしょう。理由としては出演を依頼した人物が所属する事務所によって対応が大きく変わる点が挙げられます。折衝業務は非常に水物なので、いろんなキャスティングのパターンでの交渉を経験することでだいたいの相場を把握できるようになります。

個人へのオファーか、事務所へのオファーか

近年、増加しているYouTuberは個人取引と事務所が入る場合があります。それによって事務的なやり取りのスムーズさが変わります。

多忙なYouTuberならばレスポンスが遅くて案件の進捗に支障が出る恐れがあります。そのため、契約内容できちんと取り決めをすることが重要です。たとえば、著作権に関して買取(出演料の何%など)なのか年間契約かなど、いわゆる契約の握りは明確にすべきでしょう。

近年ではモデルや役者に加えて、インフルエンサーのキャスティングが増えています。フォロワーが多いインフルエンサーに依頼すると、SNSなど直接オファーできる時代です。反面、契約や企業間取引に疎い演者もいるので注意しましょう。

キャスティングのプロを活用することの強みとは

映像ディレクターがキャスティングを1人で担当するのはそもそも難しいので、実績のあるキャスティング会社や優秀なキャスティングプロデューサーなど、業界に精通している人物に相談するのも1つの手です。業界に精通していて、コネクションがあるキャスティング会社やプロデューサーに出会えると、アサインや契約周りの対応が非常にスムーズになります。

キャスティング会社やキャスティングプロデューサーを探す際は「得意ジャンル」と「過去の実績」に着目しましょう。キャスティング会社はそれぞれで得意分野が違います。たとえば、芸能人のキャスティングに強みがある場合や、モデルのキャスティングを得意とするケースがあります。何に強みがあるのかを確認して、顧客ニーズにマッチするキャスティング会社を選びましょう。

また、過去の実績も重要です。ホームページなどでこれまでのキャスティングの事例とその件数を確認してください。その分野での実績が多ければ、依頼の際の信頼感が高まります。「得意ジャンル」と「過去の実績」を踏まえてキャスティングのプロを選べば、より楽に効率良くキャスティングを進められる可能性が高まるでしょう。

キャスティングは技量が必要なタスクである

キャスティングについて_まとめ

【キャスティングのまとめ】

  • キャスティングは映像制作技術とは異なる知見が必要
  • キャスティングにおける成否は企画の精度が重要
  • 契約周りや事情通とのコネクションが成否の鍵を握る

映像ディレクターにとってキャスティングは、制作の知識やスキルとは違った技量が必要になります。非常に多岐にわたる大変な業務にはなりますが、だからこそ楽しんで取り組むことが重要になるでしょう。また、キャスティングは急にできるようになることは決してありません。そのため、まずは日頃からのつながりを構築することに努めましょう。

たとえば、演劇やドラマを見る習慣をつけておいて、いつか一緒に仕事してみたいキャストを探したり、ピックアップしたりしておくことをおすすめします。後は頼りになるキャスティングプロデューサーとつながっておくと、キャスティングの工数削減につながるでしょう。また、演劇のワークショップなどに参加してみるとそういうキャスティングをサポートしてくれる人材に出会えることも珍しくありません。