日常生活において贔屓(ひいき)という言葉はネガティブな印象を受けがちですが、ビジネスにおいてはいわばお得意様に目をかけていただいている状態です。同じ顧客から複数取引・長期契約を獲得できれば、新規営業をせずに自社の収益を伸ばせます。そうした「ご贔屓いただく」という観点において、近年の企業活動における重要指標の1つとされているのが「LTV」です。

顧客ビジネスの上流から関わるWebプロデューサーとしてもLTVの視点が非常に重要になります。顧客満足の獲得はもちろん、プロジェクトチーム、ひいては企業の継続的な収益に向けて身につけたい知識です。Webプロデューサーとして意識すべき、LTVの基本知識や関係構築の重要性を解説します。

そもそものLTV(顧客生涯価値)の意味とは

WebプロデューサーのLVT_LVTとは

LTVとは「Life Time Value」の略語であり、日本語では「顧客生涯価値」と訳します。「生涯」は顧客との取引期間(最初の取引から終了まで)、「価値」は総収益を意味します。LTVは「1社の顧客が取引期間を通してもたらす総収益」を示す経営視点です。顧客からマルチタスクで依頼があり、ストック契約で継続ある付き合いができれば、会社としては将来的な見通しが立てやすくなります。そのため、経営層に近い役職であれば、LTVの観点で顧客と向き合うことも求められるでしょう。

一般的なLTVの算出方法

LTVという言葉だけではイメージがしづらい面があるので、数値化することでより重要性を認識できるはずです。LTVは計算式で算出できます。

【LTVの算出方法】
「LTV」=「平均顧客単価」 × 「平均継続回数」

たとえば、月額1,000円のサブスクリプションサービスで平均継続月数が1年(12ヶ月)であれば、1,000円×12回=12,000円がLTVとなります。
平均継続回数は顧客の延べ継続回数を総顧客数で割ると求められます。もしくは「1÷解約率」でも算出可能です。

LTVで算出した数値が高いほど、顧客ロイヤリティが高く、繰り返しサービスや商品を購入していると言えます。こうした計算によってLTVを管理できると、自社のサービスや商品において顧客の満足度や依存度をより把握できるようになります。

LTVが重要視されている背景とは

ビジネスにおいてLTVの考えが重要視されるようになった背景には下記が挙げられます。

【LTVが重要視されている背景】

  • ダイレクトマーケティングの普及
  • サブスクリプションモデルへの市場の変化
  • 新規顧客獲得のハードルの高まり

ダイレクトマーケティングとは、顧客1人ひとりに適切なアプローチを行い、顧客ロイヤリティを高めるマーケティング手法です。近年は単に良い物を作れば売れる時代ではありません。消費者に寄り添った戦略が必要になったことがダイレクトマーケティングの普及の要因です。

さらに、インターネットの発達により顧客の行動が可視化されたことも要因の一つでしょう。定額制が魅力のサブスクリプションサービスの普及・浸透もLTVが重要視されている理由です。売り切りではなく継続的なサービス提供から収益を高めることが狙いとなります。

また日本では、人口減少の影響や経済成長が鈍化している影響から、新規顧客を次々に開拓することは困難です。特にWeb業界は競合とのリプレイス合戦が激化するなど、レッドオーシャンとも言える状況なので、複数または長期の契約はそれだけ価値が高いと言えるでしょう。そのため、既存顧客との良好な関係からの契約の継続・拡大がより重要性を増しています。

LTVにおけるクロスセル・アップセル獲得の重要性

WebプロデューサーのLVT_カスタマージャーニー

LTVを高めるうえで欠かせない観点とも言えるのがクロスセルとアップセルです。いずれも顧客数を増やすことなく顧客単価を向上させることができて、収益につながります。

【クロスセル】
顧客に提供しているサービス・商品とは別のラインナップのサービス・商品を購入してもらうこと
【アップセル】
同一サービス・商品の上位プランへの移行やオプションを追加購入してもらうこと。

これらが重要視される背景には、前述した新規顧客獲得の難しさが挙げられます。マーケティング界隈では、「1:5の法則」として新規顧客の獲得は既存顧客からの依頼よりも5倍のコストがかかると言われています。だからこそ、既存顧客からのクロスセルとアップセルは、非常にコスパの良いビジネス戦略なのです。

クロスセル・アップセルは自社だけなく顧客にもメリットがある

同じ顧客からクロスセル・アップセルの獲得は明らかにハードルが下がりますが、それは提案する制作側だけでなく、顧客にとっても同様です。
特にWeb業界は新進気鋭の企業が次々と台頭してくる業界なので、仕事を依頼している会社の他に新たにWeb関連で信頼できる会社を一から探すのは大変です。つまり、信頼できる会社として認められることは、依頼をもらえるだけでなく、顧客のリソースの負担軽減にも貢献できるという点で一石二鳥だと言えます。

競合が多いWeb業界では複数回の取引や長期的な契約は、自社にとっても顧客にとっても非常に価値が高い付き合いとなります。クロスセルやアップセルで効果的に収益を上げ、顧客ビジネスにより貢献するためにも、複数サービスの展開を進めたり、提供サービスをパッケージ化したり、原価抑制に努めたりすることが効果的です。定期連絡の他にもメルマガやリマインドメールの配信など、とり得る施策をくまなく行うとこがクロスセルやアップセルを成功させるコツになります。

顧客との関係性構築や顧客理解がLTVの第1歩

WebプロデューサーのLVT_顧客との関係性構築

LTVを最大化する際は、顧客との関係性の構築や顧客への理解が第1歩です。顧客へすでに提供しているサービスを含めて、顧客が困った時に相談できる関係性を構築できるかがWebプロデューサーの手腕と言えるでしょう。「顧客の困った=ビジネスチャンス」と捉えて、顕在化している課題を相談してもらえる関係性の構築がポイントです。関係性の構築では、どんな場面においても顧客に寄り添う姿勢がWebプロデューサーには求められます。

そのうえで重要になるのが、顧客に興味を持つことです。Webプロデューサー自身が制作において対応できることは限られるので、顧客のビジネスをきちんと理解したうえで、適切なチームを構築することに徹しましょう。Webプロデューサーは、制作において自身が手を動かす立場ではないからこそ、顧客のことを誰よりも把握することは基本中の基本です。

常に顧客から相談の声がかかるWebプロデューサーに

常に顧客から相談の声がかかるWebプロデューサーの特徴としては、「顧客理解」の高さが挙げられます。
顧客理解はビジネス構造だけではなく、顧客(企業)がどんな特徴を持っているのか、決裁者は誰なのか、決裁者の趣味嗜好なども含みます。テクノロジーが進化してもビジネスの根本は「人対人」。そのため、相手の状況を深く理解して「相談したい」「仕事を依頼したい」「サービスを購入したい」と思ってもらうことが重要です。

相談してもらいやすい関係性を構築できていれば、自ずと顧客からの相談は増えていきます。自分からクロスセル・アップセルを狙うのではなく、たとえばWebサイト制作の他にも「SNS運用も御社でできますか?」「LP制作も考えているんですよね」という相談を得られるようになれば、信頼されていると考えて良いでしょう。

Webプロデューサーは顧客ビジネスに覚悟と責任を持つべし

WebプロデューサーのLVT_まとめ

【LTVのまとめ】

  • LTVとは1社の顧客の総収益を指す経営視点の考え方
  • 新規獲得は既存顧客からの依頼の5倍のコストがかかる
  • 「困ったときの課題解決=ビジネスチャンス」の考えを

LTVは1社(1人)の顧客からの総収益を示す考え方であり、近年、注目されている経営視点です。LTVは単に自社の利益を追求しようとすることで高まるものではありません。重要なのは顧客を好きになって、「ビジネスに貢献したい」という気持ちになること。目の前の顧客をどう助けることができるか、そこを突き詰めることでおのずとLTVの視点で物事を考えられるようになります。

顧客理解を充実させることで顕在的な課題に直面して、課題解決のためのビジネスチャンスが生まれます。顧客に新たな提案ができれば継続的な契約につながり、LTVの最大化に近づくでしょう。その過程において、Webプロデューサーにできることは、「顧客へのビジネス貢献に対して覚悟と責任を持つこと」。顧客基準で物事を考えて提案するという基本に立ち返って日々の顧客折衝に努めることが大切です。