Webディレクターの仕事は、「顧客が満足するWebサイトを制作すること」に集約されます。この「満足」は、Webサイトの見た目や出来だけではなく、「成果」に紐づいています。つまり、単に作るだけでなく、顧客のビジネスにおいて役に立つことが重要です。
成果を出せるWebサイトにするためにまず重要なのはユーザー視点であり、UXの設計が不可欠となります。
ただWebディレクターとして数々のWebサイトの制作に携わり、中堅以上のキャリアを持つ方になると、慣れからか「制作において自身の型」にはまってしまうケースも散見されます。そうならないためのユーザーニーズとの向き合い方や、それぞれの顧客に合わせた成果が出せるWebサイト作りについてお話していきます。
今の時代のWebサイト制作には、UX設計が不可欠
Webディレクターが陣頭指揮を執り制作を手がけているWebサイトは、多くの顧客にとって自社の想いを実現する場です。しかし強い想いや崇高な理念があっても、ユーザーが訪れて利用や閲覧をしてくれなければ、残念ながらWebサイト自体が無意味だと言えます。もちろん顧客が望むWebサイトを作って満足してもらうことが求められますが、「Webサイトの完成自体がゴールではないこと」は、ステークホルダー間で共通認識を持つべきでしょう。ユーザーが訪れて初めて成果につながるのです。
自社でWebサイトを保有しているのが大企業などに限られた時代であれば、「なんとなく見た目がスタイリッシュなWebサイト」を制作するだけでも満足する顧客もいたでしょう。
しかし近年は、顧客のWebリテラシーも高まってきています。Webディレクターは、顧客の意識や制作を取り巻く環境が変化していることをあらかじめ理解することが大切です。
Webサイト制作にUXが求められている理由
Webサイトで成果を出すうえで重要なのは、「ユーザーにとって満足できる出来に仕上がっているか」という視点に基づくUX設計です。
「ユーザーが体験を通して得られる満足」を指し、日本語では一般的に「ユーザー体験」と訳されます。なお、UXは「実際に体験すること」に加え、「パッケージのデザインや商品名などを見て、イメージを膨らませること」なども含まれます。
たとえば同じ飲み物であっても、自宅で飲む場合と、非日常的な空間(レジャー施設、ホテル、レストランなど)で飲む場合とでは、感じる「美味しさ」が変わることがあります。
これは、レジャー施設、ホテル、レストランといった「特別な空間」が「満足度」をさらに高めているからです。このようにモノやサービスを販売する際は、ユーザーの体験やシチュエーションについての検討が欠かせません。
そして、それはWebサイトにおいても同様です。「タイトルを工夫する」「動画やインタラクションを設置する」といった手法を用いることで、ユーザーがよりWebサイト内のコンテンツに興味・関心を持ち、コンバージョン率の向上につながるケースがあります。
UX設計の仮説立てにはカスタマージャーニーマップの活用を
「ユーザーがWebサイトを訪問した際にどう感じるのか」は内心の問題であり、正確に把握することは困難です。そのため、「こう思うであろう」という仮説を立て、情報を整理することがUX設計の肝になります。
UX設計を行う際の仮説立てに役立つツールとしては、「カスタマージャーニーマップ」が挙げられます。カスタマージャーニーマップとは、商品やサービスを購入するまでのユーザーの行動パターンを、思考や感情を踏まえて分析するためのフレームワークです。
ユーザーが一連の体験(旅/ジャーニー)のプロセスで何を考え、どんな行動を取るのかを可視化することにより、アプローチの仮説が立てやすくなります。
カスタマージャーニーマップによる情報整理に価値がある
カスタマージャーニーマップには、ISOやJISなどで定義された「標準」「規格」は存在しません。プロジェクトに合わせて、Webディレクター自身でフォーマットを作成しましょう。
一般的なカスタマージャーニーマップでは、横軸に「認知」「情報収集・比較」「資料請求」「購入」といったプロセスを、縦軸に「ユーザーの行動」「接点」「感情」「課題・対応策」といった要素を配置します。
ペルソナを設定したうえで、ユーザーになりきって感情や行動の変化を書き出すことも手法の1つです。
カスタマージャーニーマップを通して情報を整理すれば、より仮説が明確になります。仮にその仮説がはまらずに上手くいかなかったとしても、改善策を見出しやすくなります。だからこそ「こう思うであろう」という仮説を立てることが重要であり、そのための情報整理やUX設計は重要になります。
大切なのは、クライアントに対して「リサーチし、UXを設計していること」を示し、認識を共有しておくことです。
制作者視点に加えてユーザー視点で俯瞰する意義
繰り返しになりますが「Webサイトを制作すること」が最終目標になってはいけません。Webサイトは「商品・サービスを販売する」「資料請求を促す」といった成果を目的にして制作することをより意識しましょう。
時に制作者や顧客の視点だけで制作を進めていると、「作れるもの・作りたいもの」に終始する傾向があります。そうすると完成時の満足度は比較的高くなるでしょうが、ユーザーの心を揺り動かすことができず、コンバージョン率が向上しないことで、後になって顧客の不満が噴出するということも起こり得てしまいます。
もし「クライアントが希望するWebサイトの要件では、ユーザーの心に刺さらない」と感じられる場合は、ユーザーの気持ちを代弁したうえで、コンバージョン率が上がりやすいと仮説立てたUX設計を提言してください。
本気でユーザーのことを考えているのが伝われば、顧客もきっと耳を傾けてくれるはずです。
ユーザー視点を取り入れるなら「自身がユーザーになること」
インターネット上には無数のWebサイトが存在し、Webディレクター自身も「1人のユーザー」として多くのWebサイトを閲覧しているはずです。その際にユーザーとして感じたことは、UX設計に活かせます。
Webディレクションを遂行するうえで重要なのは、「ユーザーになりきって俯瞰すること」です。Webディレクターは「制作チームのリーダー」としての役割を担う存在ですが、一度制作者の立場を離れて、「ユーザーとして利用する際に、どのような心境になるのか」に思いを馳せてみると、着眼点が変わってきます。
ユーザーが商品・サービスと接する流れを最初から最後までトレースし、どのようなサイトを制作すればコンバージョンにつながるのかを考えましょう。たとえば、ユーザーの気持ちになって検索窓にキーワードを入力してみると、サジェストに出現する単語に驚かされることがあります。
さまざまな背景を持つユーザーが「どんなキーワードで検索してWebサイトを訪問し、サイト内でどんな行動をするのか」をWebディレクター自身で体験しみましょう。
成果が出るwebサイトを制作するためにUX設計の徹底を
【Webディレクション UXまとめ】
- ユーザー満足を考えたWebサイト制作には、UXの設計が不可欠
- UX設計の肝となるのは、仮説の立案や情報の整理
- 「ユーザー視点」で俯瞰することで、UXに対する理解が深まる
顧客が希望するWebサイトを制作し、喜んでもらうことは重要ですが、それはWebディレクターの本質ではありません。顧客の「御用聞き」に終始するのではなく、場合によっては顧客に対して正しい方向性を進言することも必要です。
顧客ニーズのみに基づいたWebディレクションでは、コンバージョン率が向上しない恐れがあります。「商品・サービスの購入」「資料請求」「お問い合わせ」といった成果を出せるWebサイトを制作するためには、UX(ユーザー体験)を意識しなければなりません。
UX設計を行う際に重要になるのは、仮説を立てることです。たとえば、カスタマージャーニーマップなどを活用して、プロセスごと(検索からコンバージョンに至るまで)のユーザーの思考や行動をトレースしてみましょう。また、Webディレクター自身もさまざまなサイトを閲覧する「1人のユーザー」なだけに、その際に感じたことも踏まえてユーザー視点を大切にしながら制作に励むことが大切です。