「芸人マジ歌選手権」「キス我慢選手権」などの数々の名物企画を生み出しているテレビ東京深夜の人気番組『ゴッドタン』(毎週土曜 深夜1:45~)。同番組を手掛ける佐久間さんは、各局でも史上最年少、入社3年目で自らの企画を通してプロデューサーとなりました。AD時代、日々の多忙な業務の中でも企画を出し続けたモチベーションとは?そして、放送10年目に突入する『ゴッドタン』での企画の作り方、新たなキャラクター発掘のヒントなど、お話を伺いました。
ADや助監督の仕事も、昔見ていたテレビの“面白い”に繋がる
エンターテインメントに携わる仕事に就きたいと考えたきっかけは、大学3年生の時に始まったFUJI ROCK FESTIVALでした。友人とネットで掲示板を作って、楽しみな気持ちを共有しながら迎えた当日、現場には大きいエンターテインメントが始まる時のワクワク感が溢れていました。
それまでは、学生時代から作ることに携わっているような人が進む業界だと思っていたので、自分は普通に就職活動をしようと考えていました。でも、FUJI ROCK FESTIVALをきっかけにやっぱりエンターテインメントに携わりたいと思って、もう一度、その職種を視野に入れて就職活動をしました。
そこで、ラジオ局とテレビ局、レコード会社も受けたのですが、それでも僕は自分が向いていると思えなくて、一般企業も受けていて、実際に商社やメーカーの方が内定は獲れたんです。
そんな中、事業部を受けたフジテレビの面接で「こんなにいろいろなライブやお芝居を見ている子はなかなかいない」と言われて、僕は好きで見ていたのですが、それが武器になるんだと思って、そこから制作で受けて間に合ったのがテレビ東京だけだったんです(笑)
テレビ東京に入社して、最初の年は深夜ドラマのADをやりました。テレビ東京初の深夜ドラマで予算も少なく、通常なら3ポジションに分ける助監督の仕事を全て1人でこなすような激務で、いつ辞めようかと思っていました。さらに、ADの仕事が雑用に近くて、思い描いていたクリエイティブな仕事とは違って、心が折れそうになっていたんです。
でも、ドラマの中でサッカー部のマネージャーの女子高生が、お弁当を手渡しながらキャプテンに告白するシーンがありまして。予算がないからそのお弁当を手作りするように言われて、昔アルバイトしていた居酒屋の厨房を借りて作りました。サッカー部のキャプテンへのお弁当だから、サッカーボール型のおにぎりが良いんじゃないかと、工夫して作ったらキャストと監督に凄く褒められまして。
僕の作ったお弁当に、女子高生が作った感じが出ているということで、もともと台本になかった、お弁当について触れるシーンを、監督が加えてくれたんです。
そのことで、ADや助監督の仕事も、工夫してモチベーションを持って取り組むと、自分が昔見ていたテレビの“面白い”に繋がるんだなぁと思って、そこから意識が変わりました。それでも文句はたくさんありましたが(笑)ADの仕事もアイディアを出してやるようになって、その分、ディレクターになるのが早くなったので、そこがADとしてのターニングポイントだったと思います。
3年と区切って、とにかく企画を書く日々
ADの仕事を続けながらも、僕はまだ向いていると思えなくて、企画が1本も通らなかったり、何も手応えが得られなかったら、新卒でいられる3年のうちに辞めようとしていて、勝手に3年と区切って、とにかく企画を書きました。
そしたら3年目に企画が通って『ナミダメ』という番組のプロデューサーになりました。当時、各局でも史上最年少でしたね。『ナミダメ』は、半年で終わってしまいましたが(笑)オダギリジョーさんと伊集院光さんとオセロのお2人の4人でやった番組です。女の子が泣ける漫画とか、泣けるアイテムを持って合宿所に集まって、思う存分泣いて、涙の量が少ない人から帰されて、最後の1人は100万円もらえるという(笑)
それは世の中が感動ブーム…僕らが就職活動の頃に長野オリンピックがあって、そこからスポーツをやると「感動をありがとう」みたいな風潮が続くことに違和感があったので、泣くと言うことをそのまま笑いにできないかと考えて出した企画でした。
時の編成が尖っていたのか、通してくれて、それが3年目の10月でした。改めて、この企画が通って良かったですよ、辞めようと思ってましたから(笑)
自分たちの決めたゴールに無理やり向かわせない
オーディションでの出会いを経て、総合演出を担当した『大人のコンソメ』という番組でおぎやはぎ、劇団ひとりと再会しました。『大人のコンソメ』は半年で終わってしまいましたが、いつかこの2組と番組を立ち上げたいと企画書を書き直して7年目に通ったのが『ゴッドタン』でした。
お試しレギュラー1回と特番2回を経てやっとレギュラーになり、早いものでもう放送10年目を迎えます。
その間に「芸人マジ歌選手権」「キス我慢選手権」など数々の企画を作り出してきましたが、最初に企画を思い付くきっかけは出演者ありきです。
例えば「芸人マジ歌選手権」はバナナマンの日村勇紀さんや東京03の角田晃広さんが昔、マジで作った、誰にも聞かせていない歌があるということを知って、本人はマジなんだけど笑っちゃうというものを上手く番組で見せられないかと思ったのがきっかけです。
「キス我慢選手権」も劇団ひとりが芝居がかった良いセリフを言いたがるところからヒントを得ています。劇団ひとりに色仕掛けをすると、照れた上でかっこいいセリフを言うんじゃないかな、というところから企画が生まれていますね。
『ゴッドタン』の企画では、オチは決めておきます。オチまでの困った時に行ける出口は用意しておいて、そこはスタッフとも共通認識を持っています。
とは言いつつも、現場で出演者陣がもっと面白いことを始めたら、それが僕らの想定と全然違っても、面白ければそっちを優先して、自分たちの決めたゴールに無理やり向かわせないというのは僕らが作っている番組のポリシーですね。
だから何も起きない時間もあります。出演者陣が急に探し始めて、結果、何も見つからなくて僕らの用意したオチに行く時もありますが、それでも大丈夫な空気というか。それが僕らの番組の特色だと思います。出演者の表情が他の番組と違うというのも、本気で僕らの用意したものを越えようとしてくれている姿があるからだと思います。
そういう現場の面白さがあるから、出演者陣もスタッフも、10年もの間、続けていられるのだと思います。AD時代から一緒にやっていて、他局ではゴールデンの番組で総合演出などを手掛けているディレクターも、番組が楽しいからと、『ゴッドタン』でだけは一ディレクターとして参加してくれていたりします。
個性的なキャラクター輩出は、事故みたいなもの?!
『ゴッドタン』では、あいなさん、谷桃子さんなど個性的なキャラクターを輩出しているので、どうやって見つけてくるのか、聞かれることもあるのですが、事故みたいなものですからね(笑)
ただ、オーディションはディレクターがやっていて、ちょっとでも引っかかった人は皆で映像を見て、会ってみるようにしています。オーディションは企画ありきですが、普通は企画に合わない人は切り捨ててしまうところを、何でも引っかかったところがあったらメモしておいて、とディレクターにお願いしています。メモに残した面白い人を、その企画では駄目でもストックしておいて、後に他の企画に呼んだりして進めていますね。
最近、「ジョブターミナル」「バイトジャングル」のCMでも話題となった小池美由さんのように、タレントで変わった人を見つけるのは、一般の方のブログやSNSからが多いです。今、この方のブログが面白いとか、アイドルファンならこの方、という方がいて、そういう一般の方のブログやSNSを参考にしてとりあえず現場に行きます。お客さん30人くらいの劇団のお芝居などを見に行って、そういう中から見つけますね。
元来スタッフが飽き性なので、ラインナップ表に収録日と「新企画」ということだけが書いてあることもあります。新企画やるって決めてあるから考えないとねって(笑)でも、そういう感じで様々な企画も生まれ、多彩な人に出会ってきた10年間だったと思います。
クレイジーなものや振り切ったものをやる時こそ理詰めで準備する
これから映像制作に携わりたいという方は、テレビや映画が好きというのは前提として、それに掛け合わせることができる別の武器を持った方が良いと思います。僕はお笑いの仕事にサブカルチャーの映画や音楽、お芝居、ラジオを掛け合わせて、自分の色にしています。
自分の好きなものを本業以外にちゃんと持って、しかも、それをリスナーやソフトの受け手として見続けてアップデートしておくことが大事だと思います。いざ自分が作る立場になった時に、用意する音楽が学生時代に好きだったものばかり…というのでは、恰好悪いことになるので、好きだったジャンルはずっと見続けてアップデートしておいて欲しいですね。
あと、心に留めているのは“クレイジーなものや振り切ったものをやる時こそ理詰めで準備する”ということです。本当に変わったことやクレイジーなことをやる時は感覚でやると失敗するので、逆算して理詰めでやる方が上手くいくと思っています。
番組情報
テレビ東京『ゴッドタン』
毎週土曜 深夜1:45~
http://www.tv-tokyo.co.jp/god/
2016年4月27日 DVD2枚同時発売
◆DVD1「マジ歌選手権 リローデッド」
◆DVD2「芸人VSアイドル 号泣&感動の9番勝負」
http://www.tv-tokyo.co.jp/god/dvd/