ゴハンとグッズを置いておき、庭先に集まってきたねこたちを眺めて癒されるアプリ『ねこあつめ』。2014年10月のリリース以来、Twitter、Instagramなどの反響からじわじわと拡散し、今や1,500万ダウンロードとなりました。グッズ展開なども様々に広がる中、今でも4人の少数精鋭チームで運営しているそうです。そのプロジェクトマネージャーを務める高崎 豊さんに、他のゲーム制作の合間に「企画書もほどほどに思い付いたことを形にしていった」という『ねこあつめ』誕生秘話や、オリジナルのタイトル作りへの想いなど、お話を伺いました。
■ アクションゲーム、アクションRPGが好きで、ゲームの道へ
小学生の頃からファミコンなどでよく遊んでいましたが、仕事として考え始めたのは高校生の頃です。アクションゲーム、アクションRPGが好きで、本格的にゲームの道に進もうと思い始めました。
そして大阪のゲーム専門学校に進んで、卒業と共にアーケードゲームを手掛ける会社に就職しました。ところが、入社3ヶ月くらいで、その部門がなくなってしまい、作っていたアーケードのシューティングゲームも、世に出ないままになりました。
今の仕事に繋がる、アプリゲームに初めて触れたのは、その後、先輩の紹介で入った会社でしたね。ガラケーでアプリを新規開発していき、それから今に至るまで、ずっとアプリに携わっています。
現在、在籍しているヒットポイントは2007年9月に設立され、社長に誘われて起業時に参画したものです。初期メンバーとして参加して、スマホRPGゲーム『アームド&ゴーレム』や『幻想クロニクル』を作りました。
設立当初はガラケーで作っていたものが多かったですが、ここ4~5年で急にスマートフォンが逆転しましたね。
それに伴って、作り方も変わってきています。ガラケーの頃はアプリに入れられるゲームの容量が少ないので、限られた容量の中で、どれだけ良いゲームを作っていくか、という環境でした。でも、そこから一気に広がっていき、解像度もすごく高くなって。
スマートフォンはコンシューマーのゲームよりも解像度が高い場合があったりします。容量が大きくなって、ゲーム自体にもボリュームが求められるようになっていきました。
■ 企画書もほどほどに思い付いたことを形にしていった『ねこあつめ』
『ねこあつめ』を作り始めた当初、会社自体は少人数で12人くらいでした。それを3~4チームに分けて、それぞれ受注でRPGを作っていました。
スマートフォンになったことで容量が大きくなって、ゲーム自体にもボリュームが求められる中、2~3チーム合同や特定のメンバーが集まって、チームの垣根を越えて作る機会が増えました。
するとチームの中でもRPGに携わっていないメンバーが出るようになります。そういう時に、そのメンバーでできるゲームを自社で出していこうという話になりまして。それまでガラケーはドコモやソフトバンクと契約を結んでディベロッパー登録をしないとゲームが出せなかったのですが、Google Playなどで個人でもゲームが出せるくらいハードルが低くなりました。そこで、面白いものができれば出していこう、と動き出したものの一つが『ねこあつめ』でした。
当時のチームは僕とデザイナーの森田の2人でした。僕は猫が好きで実際に飼っていて、森田も猫が好きなんですが猫アレルギーという(笑)ただ、絵柄自体は可愛いものが好きなので、2人で作るなら猫のゲームかなと思っていました。
そこで1晩2晩考えて、森田の前で「こういうゲームを作る!」と宣言しました。通常は企画書を作って、仕様を作りますが、個人で作るようなものだったので、企画書もほどほどに思い付いたことを森田に話して、形にしていきました。
「ゲームの画面に庭を用意して、そこにおもちゃを置いて、猫がやってくるのを見るゲーム」と話したら「作りましょう!」と特に疑問を持たずに言ってくれました(笑)
制作にあたっては、普段、猫を飼っていて見られる仕草や表情からヒントを得た部分もありますね。金魚鉢に張り付いて、中の金魚を眺める真剣な眼差しや、動くおもちゃを捕まえようとする仕草などは、そのグッズを与えたら、猫がどう動くかを考えながら作っていきました。
僕がプログラムや仕様を担当して、森田が画像を作っていく中で、2人でできる範囲で進めていったので、ねこたちの動きは少な目です。ただ、世の猫たちは本当に寝ていることが多いので、それが、ゲームの中のねこたちの特性とぴったりで、結果、良かったかなぁと思っています(笑)
2人で作り始めた『ねこあつめ』チームも、今は4人になりました。ライセンス部門を入れるともう1人いて5人になりますが、5人目のライセンス担当メンバーは別のチームのリーダーだったりします。プランナー兼、サウンドも作りつつ、ライセンスもやっています。
今、グッズや、Yahoo! TOPページの着せ替えなど、様々な展開をしているので、この人数で運用していると言うと驚かれることが多いのですが(笑)世界観がぶれなくて良いのかもしれません。実際、そこは一番気を使っているところです。
■ 『ねこあつめ』の世界観を崩さないために「ねこがチラシを持ってくる」?!
2014年10月の『ねこあつめ』リリース当初は1日数100ダウンロードでした。ただ、日々ダウンロード数が変わらない状況が続いていたので、これが少しでも上向いたら伸びるだろうと思いながらバージョンアップを繰り返していた時に、どこかの大きなサイトやブログで紹介されて、広がっていった感じですね。
そのバージョンアップの時にも、一番心に留めているのは「世界観を崩さない」ということです。『ねこあつめ』は僕たちが戦略を立てて大きくしていったゲームではなく、ユーザーがTwitterやInstagramへの投稿を中心に盛り上げてくれたコンテンツだと思っているので、ユーザーが楽しんでいるものを崩さずに、さらに盛り上げていけるように考えています。あとはユーザーインターフェイス、操作方法に新しい要素を入れようと考えたりもしますが、シンプルで分かりやすい操作は変えないようにしています。
それは、普段ゲームをしない方も『ねこあつめ』を触ってくれていると聞いたことや、英語版に対応する前から20~25%は海外からのダウンロードだったことも踏まえて、いろいろな方に親しんでもらえるためにはシンプルなところは変えてはいけないと思っているからです。
「世界観を崩さない」という想いは“ねこが持ってきたチラシ”で広告を見せる方法にも表れています。『ねこあつめ』を作り始めた頃は、下に小さいバナーが出続けている広告が主流でした。『ねこあつめ』のシステム自体、何度も起動してもらうことを想定しているので、“金にぼし”(ゲーム内でアイテムを入手できる、コインのような役割をするもの)の課金よりも広告収入の方がゲームとしては正しいものです。ただ、ゲームを開いてねこを見ようと思ったのに、下にずっと広告のバナーが表示されているというのが嫌だったので、ゲームとしての収益性は度外視して、でも、企業として作るものなのでお金をどこかで得ないといけなくて、“金にぼし購入”を作りました。金にぼしを購入すればアイテムを揃えるのに時間短縮にはなりますが、課金しなくても遊べるようになっているので、こんなの買ってくれる人いるのかな?と思いながら(笑)ひとまず作ったものですね(笑)
インタースティシャル型という、ゲームの画面全体に広告がバンと出るものが主流になった頃に、収益を上げていくためには広告を出した方が良いですよ、というお話をいただくことも増えましたが、入れたくないと思っていて。ああいう広告はクリックされることで収益が発生するものなので、クリックさせようとしたり、中には誤タップさせようというタイミングで表示されるものもあるので、それはやらないで、世界観に合わせて組み込むために“ねこがチラシを持ってくる”という方法を採りました。
■ オリジナルのタイトルでヒットを生み出すということ
『ねこあつめ』をリリースするまでは、オリジナルゲームを作っても鳴かず飛ばずということが多かったのですが、オリジナルのタイトルでどういう風にヒットが作れるか、どうしていったら良いかというのが見えた気がしました。大きい会社が大きいゲームを作って、大きくプロモーションをしないとヒットしないのかなと思い始めていた節もあったので、その頃にヒットを出せたのは、会社としても大きな出来事でしたね。
そして、ゲームの作り手としての自分にとっても、大きなターニングポイントになったと思います。それまでは受注でゲームを作っていたので、今売れているものや人気のあるものを分析し作成していくというところだったのが、オリジナルのタイトルを作り上げたことで、空気が変わったように感じています。
『ねこあつめ』はユーザーに育ててもらったゲームなので、これからも幅を広げていけるようなバージョンアップをしつつ『ねこあつめ』に関係させた『仮面ライダーあつめ』のように、会社で「あつめ」シリーズをいくつか展開していくことになると思います。
これからゲームの制作に携わる方には、自分の好きなもの、得意なものを活かして欲しいですね。僕にとっては『ねこあつめ』がまさにそうで、例えばこれが犬だったら、動きも仕草も分からなかったと思うし、猫の動きだからこそ形にできました。デザイナーの森田に動きの指示を出すのですが、森田自身は猫を飼っていないので、上がってきたものを見て違和感を覚えることがあるんです。その違和感は、好きなもの、得意なものだからこそで、それはゲーム作りにとても大切なことだと思います。
■『ねこあつめ』好評配信中!
Android版,ios版合計1,500万ダウンロード突破(2016年3月現在)