『アニマトリックス』『次元爆弾』など、かつて誰も見たことがなかった先鋭的なアニメーションを世に送り出し、世界中から称賛を集める森本晃司さん。これまで、大友克洋氏や押井守氏からの絶大な信頼を受けて数々の作品にアニメーターとして参加した後、映像制作チーム「STUDIO 4℃」を創設。最新鋭の映像表現を次々と生み出し、日本のアニメーションの発展を支えてきた重要人物です。
さらに、アニメーションの領域を超えたクリエイティブチーム「phyΦ」(ファイ)を2011年より始動。今年12月には、自身初となる実写映像と演劇のコラボ作品『羊人間012』を発表予定。常に新たなものへと挑戦し続ける森本さんへ、尽きることのないクリエイティブ・スピリットの原点を伺いました。

廃墟から生まれた創造力

生まれ育った場所は、和歌山県の山の中。周りに何もないから、遊び道具は自分で作っていました。その頃から、廃墟が好きだったんです。近所の山中に寂れた廃墟があって、何度も行っては、そこで何が起こったんだろうと想像するのを楽しんでいました。廃墟には不思議なエロスがあって、子供ながらにタブーに触れる感じがしたんですね。ちょっと背伸びして行く大人の場所というか。これはイメージの原点になっているのかもしれません。

また、当時放送されていたTVアニメも当然大好きで、『宇宙戦艦ヤマト』や『未来少年コナン』、手塚治虫さんや宮崎駿さんの作品も貪るように見ていました。自然と自分もアニメーションを作ってみたいと思うようになって、アニメーション科がある専門学校に入ったんです。卒業後は『あしたのジョー』なんかを手がける制作会社マッドハウスに入社しました。

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「遊牧民」なアニメーターが、日本アニメーションの礎を築いた

img01 そうして3年もするうちに、漫画家の大友克洋さんがアニメ業界に参戦するという噂を聞きつけました。1983年に『幻魔大戦』のキャラクターデザインを大友さんが手がけたのが最初でしたね。これは見逃せないと思っているうちに、短編オムニバスアニメ『迷宮物語』で大友さんが監督・脚本を務めた短編作品に作画として参加しました。押井守さんに出会ったのもこの頃かな。

当時のアニメーターというのは遊牧民みたいなもので、一応は制作会社に所属しながらも、別会社の作品にも出向というかたちで作画を担当することが多かったんです。自分がやりたいと思った作品ごとに次々と移動していく感じですね。そこで知り合いも増えていくし、皆それぞれ得意分野が異なるので、作品ごとに呼び合うようになる。僕は当時、メカものばっかり描いていました。こうした遊牧民アニメーターたちが、日本のアニメーションの礎を築いていったんだと思います。

自ら創設した「STUDIO 4℃」創設から、

領域横断型クリエイティブチームへ
10年くらい様々な作品の絵を描いているうち、だんだんと自分で企画や演出をやってみたくなりました。ただ、制作側がほしいものと、自分がやりたいことがなかなかマッチしなくて。 そんな折り、『魔女の宅急便』で知り合い、当時スタジオジブリのラインプロデューサーだった田中栄子さんに相談したところ意気投合。彼女もやりたい方向を探っていた時で、それならいっそ自分たちで会社を作ってしまおうと1986年に始動したのが映像制作集団「STUDIO 4℃」です。

それから夢中で作っているうち、あっという間に20年くらい経つわけなんですが(笑)。ここ数年くらい前から、もっと新しいものを作りたいと思うようになってきたんです。そして2011年、ジャンルを横断してものづくりができるクリエイティブチーム「phyΦ」を立ち上げました。これまでのアニメーションの枠にとどまらず、もっと広い領域に挑戦してみたくなったんです。

舞台作品『羊人間012』では、小劇場を現実と地続きのスペースへと変貌させる

いま、自分にとっても全く新しい試みが始まっています。それが、劇作家の保坂萌さんとのコラボレーションで取り組む『羊人間012』。元々、保坂さんの方から声をかけてくれたのがきっかけで、小劇場を舞台に展開される演劇×映像作品というものに挑戦します。さらに、劇中に織り込んでいく映像は、自分にとって初めての実写。撮影はこれからですが、どんなものに化けるか今から楽しみですね。

ストーリーの原案は、昔からやってみたいと思っていたアイデアのひとつで、あるひとりの人間が、11もの人物に分裂し、様々な人生を辿っていくというもの。この企画を考えたとき、観る人と共通の体験がいいなと思ったんです。誰しも、「宇宙飛行士になりたい」とか、今とは違う人生を夢見たことがあると思います。それが実際に起こったらどうなるか? そんな、かつての記憶が呼び起こされるものがいい。できるだけ、役者と観客の境界をなくしたいと考えています。

その意味でも、今回は小劇場をバーのような空間にしてしまおうと思っています。ハコの中ではDJがその日のプレイをしていて、お酒を飲んで、気が付けば演劇が始まっている。そんな場所があってもいいと思うんです。そして、現実世界とバーの中の物語世界が地続きになっていく。そうしたリアルさを目指しています。昔から寺山修司の演劇実験場「天井桟敷」なんかも好きで、ある空間から生まれてくるものに興味があります。これが成功すれば、実際にそうした実験的なお店を作りたいですね。

初の舞台、実写映像での可能性

やってみたい表現のアイデアはまだまだたくさんあって、今回の実写映像もそのひとつです。僕は実写こそ「つくりもの」だと思うんです。それは、画面に映る景色にリアリティを求めるのではなく、どうしたら観る人が「リアル」を感じ取れるかが重要じゃないか、と。たとえば、爆発している景色の中でラブレターを渡すシーンがあるとする。そのとき、焦点が向かうのはラブレターの方で、その主観的な視点に人間味があるんだと思います。

まずイメージを絵で考えてしまうので、それを役者にどう伝えていくかはこれからの課題でもあります。そこは演出家でもある保坂さんの力も必要ですね。ただ、舞台は映像と違って生ものですから、毎回ズレがあってもいいと思うんです。アニメーションは1秒1コマすべて決めてしまいますが、あえて幅を残しておくことに可能性があるのかもしれません。

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クラウド・ファンディングで、更なる挑戦へ向かう

今回、もうひとつの挑戦はクラウド・ファンディング。「CAMPFIRE」にて、ソーシャル上の支援を募集しています。なかなかお金になりくい演劇という分野ですが、なんといっても小劇場で全15ステージしかない。今回のファンディングが達成した暁には、全国各地、また世界中でより多くの人々に観てもらうため、USTREAM配信をしたいと考えています。

とはいっても、ただの定点撮影では舞台の臨場感は伝わらない。最低3台ほどのカメラを設置して、しっかりとその場の空気を伝えたい。それは、先ほど話したような現実と舞台空間、そしてUSTREAMを観ている人とも、同じ時間軸を共有したいというコンセプトに基づいています。また、撮影した映像を僕自ら編集して、販売用のDVDを作成したいと思います。DVDでまた新たな映像作品となるからには、どこからが現実なのかわからないような世界観を創り出したい。ゆくゆくは、実写の映画作品にも繋がるものになるといいなと思っています。

今回は新たな試みばかりですが、実はやってることは今までと何も変わらない。往来の演劇や映像、またアニメーションなどの垣根を超えて、まだ誰もやったことがない新しいものを生み出したいんです。それは、クラウド・ファンディングにおける資金獲得もそうだし、演劇と映像とリアルタイム配信など、すべてが融合した新ジャンルを作りたいと考えています。ぜひ、これを読んでいる人にも参加してほしいし、新たなものが生まれる現場を共有したいと思います。
クラウド・ファンディング・サービス「CAMPFIRE」
《アニメーション監督 森本晃司 最新演劇作品『羊人間012』》
http://camp-fire.jp/projects/view/794

『羊人間012』
日程:2013年12月7日(土)~16日(月)
会場:新宿サンモールスタジオ
チケット料金:全席自由 5,500円(税込)