松竹に助監督として入社し、1998年の監督デビュー以来、『釣りバカ日誌』シリーズ11~13、『ゲゲゲの鬼太郎』、『おかえり、はやぶさ』など話題作を数多く手掛ける本木克英監督。幕府の陰謀で、突如”5日以内の参勤”を命じられた貧乏藩の奮闘を描いた『超高速!参勤交代』(主演:佐々木蔵之介)の公開を前に、お話を伺いました。

就職活動の一環で松竹に応募!多くの刺激を受けた助監督時代

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小さい頃から映画鑑賞が趣味でしたが、「映画監督になろう」と思ったきっかけは就職活動でした。大学は政治経済学部で、当時はバブル期だったことも手伝って、選択肢は多くあった中で、松竹が17年ぶりに社員で募集を出した”助監督”が目に留まりました。
「”助”が取れたら”監督”になれるのかな」と思って(笑)応募したら採用されました。それで親兄弟を驚かせ、嘆かせもしましたが、入社後に初めて映画の現場を知っていくことになります。映画監督として活動するには脚本を書けないといけない、ということも初めて知って、手探りで脚本の執筆に挑戦したりと、経験がない分、現場のことを知っていく毎日はとても新鮮でした。

さらに、社員助監督の先輩が10名以上いらっしゃった当時の環境からも、大きな影響を受けました。教養と知性に溢れた方が多くて、会社員というよりは作家の集団のようで、いつも「あの映画見た?」「あの原作読んだ?」という会話が繰り広げられ、自分の見解と志向を常に求められました。
その会話に何とか加わろうと、僕もたくさん映画を観たり、本を読んだりしました。創作に対する考え方は、先輩諸氏からの影響が大きかったですね。
ジャン=リュック・ゴダールやルイ・マルなど、時に難解で哲学的な映画も、先輩方に勧められて、観るようになりました。アラン・レネの『去年マリエンバートで』のように、いまだに理解できない映画もありますが(笑)幅広く多くの作品を観る機会が増えたことは変化でしたね。

原作を読んで「すぐに映像化できる」と確信!

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© 2014「超高速!参勤交代」製作委員会

今回の土橋章宏さんによる原作は、2011年に城戸賞を受賞しています。僕は城戸賞の最終審査員の一人だったので、審査の時から、他の時代劇の応募作品と比べても、独自の娯楽性を備えた作品で素晴らしいと思っていました。僕が教わってきた脚本の書き方にも当てはまる…「ワンカットは一行で描く」というような無駄のないタッチでテンポよく書かれていたので、これはすぐに映像化できるな、と思いました。

なので、最初は審査員として、いろいろな監督やプロデューサーに映像化を勧めていたところ、「そこまで言うなら自分で監督したら?」と松竹のプロデューサーが企画を通してくれて、僕が監督を務めることになりました。

土橋章宏さんの脚本では、個々のキャラクターも非常に分かりやすい書き分けられ方をしています。性格だけでなく、藩士たちが、槍であったり二刀流であったり、それぞれ得意な武芸を持っている設定だったので、キャストのみなさんも、それを手掛かりにキャラクターを作ることができたようですね。

佐々木蔵之介さん演じるお人好しの藩主をはじめ、西村雅彦さんが扮する家老の相馬兼嗣は、計算高いけれども武芸はできないとか、逆に武芸はできるけれども、脳みそまで筋肉になっているような(笑)寺脇康文さんの役どころなど、明快な書き分けがされています。こうした脚本にはキャスティングが最も大事なところで、それぞれの役柄を様々な俳優でイメージする作業は楽しくもありました。
見た目より実力で(笑)選んだところが大きいです。状況だけ伝えてお芝居を始めていけば、監督が細かいことを言わなくても、各自が自動修正してくれるという…今回は監督として自分から働きかけるというよりは、一人目の観客としておもしろがっていた印象ですね。それほど、実力第一のキャスティングが大事だったということだと思います。

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「キャラクターを作る」ということ

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© 2014「超高速!参勤交代」製作委員会

これまで手掛けた作品でも『ゲゲゲの鬼太郎』や『釣りバカ日誌』シリーズなど、キャラクターが確固たる存在のものは多いですね。

マンガの場合、「物語よりもキャラクター作りを優先する」と、おっしゃっていた原作者の方がいて。それを聞いた時は「なるほど。映画が普段心がけていないところだなぁ」と違いを感じました。

映画はストーリー作りにばかり意識が集まる傾向にありますが、登場人物がどんなキャラクターで何を考えてどんな行動をするか、始めに掘り込んでいくと、物語は自然に動き出すといいます。すると、演じる方も役柄に取り付きやすいのでしょう。
こうした「キャラクターを作る」ための演出で言うと、例えば群像劇のように、大勢出てきてそれぞれの登場人物の違いをどう際立たせながら見せていくか、と考える場合、自分の身近にいる人たちを想定し、いろいろな俳優さんに当てはめて演じてもらうということは、手法の一つかもしれませんね。

普段から、そこまで積極的に人間観察をしているわけでもありませんが(笑)僕自身、いろいろな人のちょっとした仕草や、ある状況においての行動を見逃さず、おもしろい考え方をするなと感じてしまいます。そんな人たちを作品に取り入れることで、「身近なあの人を見ているみたいだな」という感覚になることもありますね。

“映像表現のおもしろさ”が現れたみどころ

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© 2014「超高速!参勤交代」製作委員会

今回の『超高速!参勤交代』では、大名行列のシーンの見せ方には心を砕きましたね。大名行列のシーンは、お金と時間ばかりかかる割に動きが退屈で、映像的に力のあるものになりにくいんですよ。ただソロゾロ歩いているだけですから(笑)

それを、どう立体感がある映像として見せるかは、今回、一番苦労した点でしたが、脚本に書かれていた、”噴水状に行列が回りながら大人数に見せかける”という部分を読んだ時に「これなら大名行列もいけるかも」と思いました。
その”大人数に見せかける”大名行列の様子を、大クレーンを駆使しながら撮ったのも、いかに観客に飽きさせずに見せるかを考えた結果です。

“客観的な視点で見る”ことの大切さ

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僕が撮影所で助監督修行を経て監督になった頃に比べて、今は誰でも映像作品を作ることができる環境が整っていますから、情熱のおもむくままに、試行錯誤をして欲しいと思います。その中で、自分で撮りたいものを撮って編集するのは良いことですが、娯楽作品の場合、”自分が観客になって見る”という視点も忘れずにいて欲しいですね。

僕自身、デビュー作『てなもんや商社』の頃はその視点は持てていませんでした。ただ自分が撮りたい企画を、思うままに脚本を作り、撮って仕上げたのですが、劇場で公開した時に、お客さんが笑っている箇所が、こちらの計算と全く異なっており、想定外の嬉しさと同時に、戸惑いや驚きがありました。

あるフランスの記者の方に「監督って王様の観客席のチケットをもらった人でしょ」と言われ、「なるほど」と納得したことがあります。無地のスクリーンに向かって「俺はこういうものが観たい!」と言っていれば、スタッフと俳優が集まって実現してくれるんだ、と。それから自分は一人目の観客なのかな、と思うようになりました。

映像制作をする人には作りたい情熱が溢れていると思いますが、現場で”客観的な視点で引いて見る”ことは、特に喜劇ではすごく大事だと思います。現場で面白く盛り上がっていても、その熱はそのまま観客には伝わりません。スクリーンを通して観た時を想定して、「それでもまだ面白いか?」という疑いを、監督は持たなくてはいけない。ひとりよがりにならない客観性というか、”引いて見る”視線が必要なのだと思いますね。

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■作品情報


『超高速!参勤交代』
6月21日(土) 全国ロードショー

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© 2014「超高速!参勤交代」製作委員会

出演:佐々木蔵之介、深田恭子、伊原剛志、寺脇康文、上地雄輔、知念侑李(Hey!Say!!JUMP)、柄本時生、六角精児、市川猿之助、石橋蓮司/陣内孝則(特別出演)、西村雅彦
監督:本木克英
脚本:土橋章宏(講談社「超高速!参勤交代」)
製作:「超高速!参勤交代」製作委員会
企画・配給:松竹

■オフィシャルサイト
http://www.cho-sankin.jp/